経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 76 五輪イヤーの日本経済――五輪後も景気が持続する3つの理由

(2020年01月15日)

新しい年が明けました。今年、2020年はいよいよ東京五輪が開催されます。7月の開幕に向けて準備が本格化して五輪ムードが盛り上がっていくことでしょう。経済の面では五輪特需によって今年前半の景気を後押しすることが期待されます。

しかし問題は五輪終了後です。五輪特需がなくなり、景気が失速するのではないかという心配があるからです。それに加えて年明け早々、イラン情勢が緊迫化し株価が一時急落するなど、国際情勢の波乱も懸念材料です。米中貿易戦争では「第1段階の合意」が成立したものの、米中対立そのものはなお続きそうです。

しかしそれでも、今年は景気拡大が持続すると見ています。その理由は3つにまとめることができます。

訪日外国人増加の流れは五輪後も続く~「日本の魅力」が背景に

第1は、訪日外国人増加や都市再開発が五輪後も継続することです。これについては、このブログで昨年8月に書いた通りです(「東京五輪後の景気は大丈夫!」と予測する理由――ラジオNIKKEIで解説(2019年8月24日付)。その後、日韓関係の悪化によって韓国からの訪日客が大幅に減少しているため、「インバウンド・ブームはそろそろ終わりではないか」との見方もありますが、統計データをよく見ると、韓国からの訪日客を除けば相変わらず2ケタの増加が続いています。

今年は五輪で日本を訪れる外国人は一段と増えるでしょうし、日本の魅力が海外に発信される機会が従来以上に増えることになります。その効果によって五輪後も訪日外国人の増加は続くと見ています。 たしかに五輪直後にはいったん一段落ムードが出るかもしれませんが、中長期的には訪日外国人増加のトレンドは続くでしょう。

この背景には、日本に対する海外からの評価が高まっていることがあります。日本の有名観光地だけでなく、日本の美しい四季折々の景色と自然や歴史、文化、食から治安の良さ、清潔さ、さらに「おもてなし」や礼儀・マナーなど、トータルで日本の魅力が外国人の心をつかんでいるのです。このことは、訪日外国人の60%以上がリピータ―であることや地方を訪れる外国人が増えていることなどに表れています。

これによる経済効果は、外国人による日本での消費額4兆5200億円(2018年)に達したことにとどまらず、そこからさらに波及して日本製品に対する海外からの需要増加が幅広い産業分野に及んでいる。たとえば化粧品や衛生関連日用品、農産物・酒類などの輸出額はこの数年で2~4倍にも急増しており、化粧品メーカー各社は相次いで国工場の新増設に乗り出しています。地方を活性化させる効果も生み出しており、日本の産業構造を変えるインパクトを持っていると言ってもいいでしょう。

回復してきた日本企業の競争力~オンリーワン技術で強み発揮

第2は、日本経済と日本企業の競争力が回復してきていることです。実はここ数年、日本経済の力はアベノミクスによっては着実に回復しており、日本企業の収益力も格段に向上しています。日本企業はバブル崩壊後の経済低迷やリーマン・ショックなどを乗り切るため、抜本的な構造改革を進めてきました。単なる合理化にとどまらず、経営資源の集中や事業の再編、本来の意味でのリストラ(リストラクチャリング=事業の再構築)を実行してきた結果です。その中で注目すべきは、得意分野や独自技術を磨き、世界市場で圧倒的なシェアを獲得し高収益を上げる企業が続々と増えてきていることです。

昨年の日韓関係の悪化は、そうした日本企業の “隠れた強さ”を浮き彫りにしました。日本政府が、半導体製造の材料となるレジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミドの3品目について韓国向け輸出の管理強化を打ち出しましたが、韓国の半導体メーカーはこの3品目のほとんど日本メーカーからの供給に頼っているからです。言葉を換えれば、それら日本メーカーの技術力がなければ、韓国の半導体産業は成り立たないのが現実なのです。

韓国半導体産業だけではありません。世界のIT製品は、今や日本企業が陰で支えていると言っても過言ではありません。たとえば、スマホの基幹部品の多くを日本の電子部品メーカーが供給しています。これらの製品・部品はその企業しか製造できない代替のきかないもので、いわばオンリーワン技術です。したがって部品供給という立場でも「買いたたかれる」ということがありません。日本企業はそうした力を身につけるようになったと言えます。

危機を乗り越え強くなってきた“150年のDNA”

第3は、「150年のDNA」の力だ。日本人は明治以来、約150年の間に何度も危機に直面しながらもそれを乗り越え、むしろ強くなってきた歴史を持っていることです。幕末・明治維新では欧米列強による植民地化の危機を乗り越え短期間で近代化を果たし、太平洋戦争敗戦後は奇跡的な復興を遂げ高度経済成長を実現しました。今もまたバブル崩壊以来の危機を乗り越えて強さを取り戻しつつあります。私はこれを「150年のDNA」と名付けています。今はちょうど「150年のDNA」を再び発揮し始めているわけです。

以上の3つがある限り、多少の国際情勢の波乱や経済変動があっても乗り越えることができると思います。これが日本経済本格復活の原動力になるでしょう。世の中、悲観論があふれていますが、多くの人が「過度な悲観論」から脱して、日本経済の底力にもっと自信を持ってほしいと願っています。

なお、昨年末に掲載した『マイナビニュース』の連載「令和の時代に日本経済が復活するワケ」(全7回)に詳しく書いていますので、ご覧ください。

◇第1回~第7回(2019/8/23~2019/12/26)
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-1/
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-2/
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-3/
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-4/
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-5/
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-6/
   https://news.mynavi.jp/article/reiwa-7/

◇または、本HP「令和の時代に日本経済が復活するワケ」バックナンバー    http://okada-akira.jp/reiwa/index.html

*本稿と同じ内容は、公式ブログ「経済のここが面白い!」にも掲載しています。
 https://ameblo.jp/okada-economics/

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