経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 13 「日経平均株価1万円割れが示すもの」

(2012年4月17日)

米国の追加金融緩和観測後退で株価急落

今年に入って回復していた株価が4月になって突然崩れ、日経平均株価は再び1万円の大台を割ってしまった。4月11日には9400円台まで下げ、月初からわずか7営業日の下げ幅は650円に達した。果たして株価回復はもう終わったのだろうか。

最近の株価の動きを振り返ってみると、1月中旬に8300円台だった日経平均株価は1月下旬ごろから急速に上昇し始め、3月14日に1万円の大台を回復した。3月27日には1万255円と、震災後の高値を更新したのだった。その主な要因は、(1)日米が金融緩和を強化した (2)欧州経済危機がひとまずヤマ場を越えた (3)為替相場が円安に戻った――の3つだ。

第1の金融緩和については、1月25日にFRB(米連邦準備理事会)が「少なくとも2014年末までゼロ金利を続ける」と表明し、続いて2月14日に日銀が追加金融緩和策を決めるとともに「望ましい物価安定の目途」を1%と明確化した。これをきっかけに市場に安心感が広がった。

第2の欧州経済危機については、ギリシャ国債が大量償還日となる3月20日がヤマ場といわれていたが、3月9日までにギリシャ政府と債権団による債務削減交渉がまとまった。欧州は当面の危機を回避した。

第3に、その結果として為替相場でユーロが買い戻されるなど円高修正の動きが顕著になった。2月上旬に1ドル=76円台だった円相場は、1ヵ月あまりで84円台まで下落した。

しかし4月入り、株価は一転して下落し始めた。4月4日に再び1万円を割り込み、11日まで7日連続で下げが続いた。12日と13日は続伸したものの、株式市場は調整色が強まっている。

この最大の原因は、米国の金融緩和観測が後退したこと。4月3日に発表された前回3月13日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨で、追加金融緩和に前向きな委員が少なかったことがわかったためだ。これで追加緩和への期待が一気にしぼみ、世界的な株安となった。米国の追加金融緩和観測はこの間の株価回復の最大の要因になっていただけに、その期待が剥げ落ちたことのショックはたしかに大きかったといえる。

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万能ではない金融政策

これに米雇用統計が追い討ちをかけた。4月6日に発表された3月の非農業部門の雇用者数が前月比12万人増にとどまり、予想を大きく下回った。このため米国景気の先行きに不透明感が台頭したのだ。これが一因となって10日にはNY株式市場でダウ平均が213㌦安と今年最大の下げとなり、それにつれて日経平均も下げる展開となった。

こうして米国の景気に不透明感が出てきたことで、米の金融緩和観測が再浮上し、日本でも日銀による追加緩和策に期待が高まっている。9~10日に開かれた日銀の金融政策決定会合では金融政策は現状維持だったが、4月27日の次回会合では追加の緩和策が打ち出されるのではないかとの見方が増えている。当面は日本と米国の追加金融緩和をめぐって一喜一憂する展開が続くだろう。ただ追加緩和が行われるとしても、それだけで息の長い景気回復と株価上昇につながるかどうかはやや疑問だ。

なぜなら、金融緩和は決して万能ではないからだ。経済政策としては通常、金融政策と財政政策が車の両輪とされている。金融政策は中央銀行、財政政策は政府の仕事だが、今は各国とも巨額の財政赤字を抱えているため、政府が財政出動するには限界がある。そのためどうしても中央銀行の金融政策に頼らざるを得ないのが現状だ。市場が金融政策に期待を寄せるのもそれが原因なのだが、しかし本当にそうだろうか。

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今こそ政府の出番~真の成長戦略を

政府が「財政出動型ではない経済政策」を行う余地がもっとあるのではないか。日本なら例えば、思い切った規制緩和、内外企業の立地促進、税制・法制面からの投資誘導などが考えられる。当面の景気対策にとどまらず、経済の活性化とデフレ脱却にもっと知恵を絞り、成長を取り戻すための戦略と方針を示す――これこそが政府の役割のはずだ。

だが残念なことに、現在の民主党政権はそれに対する問題意識が希薄なようだ。今国会の最大の焦点である消費税引き上げ法案をめぐり民主党内で「名目3%成長・実質2%」を増税実施の条件とするかどうかが議論の的となったが、報道を見る限り、それだけの経済成長をどうやって実現するかの議論は行われた形跡はない。

消費税引き上げが避けられない財政事情であることは確かだが、同時に経済活性化とデフレ脱却がなければ日本経済はジリ貧となり、財政もむしろ一段と悪化するおそれがある。今、必要なのは真の成長戦略だ。成長戦略とは単に2%とか3%などの成長率の目標を数字で示すことではない。前述のような、デフレ脱却と持続的な経済成長のための方針と具体策を明確にすることだ。

デフレ脱却などに関連して「政府と日銀の協調」がしばしば話題になる。たしかにそれは不可欠なことで、その観点からこれまで「日銀の金融緩和が不十分」と批判されることが多かった。しかし今回、日銀は2月に追加緩和と物価安定の目途1%との方針を打ち出して、一歩前へ踏み出した。今度は政府の番である。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(4月10日付け)を一部加筆修正したものです。

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