経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 23 2013年は大転換の予感~アベノミクスへの期待と課題

(2013年1月22日)

異例の速さで緊急経済対策
~「3本の矢」でデフレ脱却と経済再生めざす

安倍内閣はこのほど、総額20兆2000億円にのぼる緊急経済対策を決定し、それを盛り込んだ2012年度補正予算案をまとめた。安倍首相は選挙期間中から、デフレ脱却と経済再生のために積極的な政策を主張してきたが、その具体化第一弾となるものだ。内閣発足後わずか半月という異例の速さで、安倍首相の言う「ロケットスタート」はまずは成功と言えるだろう。安倍内閣のスタートダッシュが最近の歴代内閣と決定的に違うのは、「デフレ脱却と経済再生」という最優先目標を掲げて明確なメッセージを送り続け、かつそれに向けての戦略と具体策が目に見え始めてきたことだ。“ロケット”がこのままうまく軌道に乗れば、2013年は大転換の年になる可能性が大きい。

 

安倍内閣の経済政策、いわゆるアベノミクスの基本的な戦略は、第1にデフレ脱却のため日銀に金融緩和強化を求める、第2に政府として公共投資を中心とする財政出動で景気テコ入れを図る、第3に中長期的な観点から民間投資を喚起して日本経済の再生をめざす――というもので、安倍首相はこれを「三本の矢」と名づけている。

第1、第2の点はメディアでもよく取り上げられ話題になっているが、特に第3の「経済再生」という観点が重要だ。これまで歴代内閣は幾度となく「景気対策」「緊急経済対策」を策定してきたが、小泉内閣以外はほとんどが目先の景気対策に終始し、中長期的な経済再生への取り組みはきわめて弱かった。特に民主党政権ではその問題意識さえ希薄だったといえる。その意味でアベノミクスは、明らかに従来とは違う段階に踏み出したと評価できる。

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「大転換」を読み始めた株高・円安

株式相場が昨年11月以降に上昇が続いていることも、それを反映している。当時の野田首相が「解散」を表明した昨年11月14日から今年1月18日までの2ヶ月余りの間に、日経平均株価は8664円から1万913円まで上昇した。上昇幅は2249円、率にして26%に達している。これほどの上昇は最近ではあまり例がない。今回の株価上昇は2005年の郵政解散時と似ていると言われるが、当時の解散から2ヶ月間の株価上昇率が約15%だったことと比べても、今回の上昇ぶりは際立っている。これは単に安倍首相の発言や政策への反応とか期待というよりも、市場が日本経済の大転換を意識し始めたことを示しているといえるだろう。

同時に円安も急速に進んでいる。昨年11月14日の1ドル=79円台から1月17日には90円台、対ユーロでも100円台から120円台まで円安となった。その原因は言うまでもなく、安倍首相が日銀に対して金融緩和を強く求めているためだが、今回の円安にはさらに重要な意味が含まれている。

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デフレ脱却が円安にもつながる

これまで円高の進行がデフレ圧力となって日本経済を苦しめてきたことは広く理解されていると思う。ところがそのデフレ自体が円高のさらなる要因になってきたことはあまり議論されてこなかった。ここで為替相場とデフレの関係について考えてみよう。今回の円高局面以前では1995年に円が1ドル=79円台の最高値をつけたことがあった。これを一つの商品の価格に例えると、米国で1ドルの商品が日本では約80円ということになる。その後、米国では消費者物価指数が毎年2~3%程度の上昇が続いたので、現在の物価は1995年当時の1.5倍になっており、当時1ドルだった商品は現在1.5ドルになっている計算だ。一方、日本の消費者物価指数は当時より2%下落しており、当時80円だった商品は現在78円40銭になっている計算だ。ということは現在までは1.5ドルと78円40銭が釣り合っている、つまり1ドル=約52円27銭という図式が成り立つのである。

もちろん現実の為替相場はさまざまな要因で変動するのでこの通りになるわけではないが、物価との関係から言えばデフレが続く限り円高圧力がかかり続けるということを意味している。これは経済の基本に立ち返って考えてみれば当然のことだ。デフレとは物の価値が下がることであり、その裏返しとして貨幣の価値が上がることなのだから。逆に物価が上がることは貨幣の価値が下がる、つまりデフレから脱却することが円安につながるのである。アベノミクスはまさにその1歩を踏み出したわけで、最近の円安は為替相場の構造を一変させる可能性を読み始めたとも解釈できるわけだ。

幸い、海外からの円高要因となっていた欧州経済情勢も一時のような危機感は薄らいでユーロの買い戻しが活発化している。米国も「財政の崖」を回避し、実体経済は堅調を維持している。本コラムの前回に指摘したように、米国大統領の2期目は景気拡大・ドル高になる可能性が高いことも、円高相場の終焉を示唆している。

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法人税の大幅引き下げを~企業活性化のカギ

ただデフレ脱却と日本経済再生の道筋をたしかなものにするには、いくつか課題もある。第1に経済再生には日本企業を「六重苦」から解放して競争力を強化することが不可欠だ。「六重苦」とは、(1)円高 (2)高い法人税 (3)厳しい労働規制 (4)グローバル化対応の遅れ (5)厳しい環境規制 (6)高い電力料金と電力供給不安――のことで、これが日本企業を苦しめ国際競争力を弱める大きな原因になってきた。したがってその重石を取り除かなくてはいけない。そのためには既存の枠内で対策を考えるのではなく、規制や制度の改革にまで踏み込む必要がある。

その中で最も重要なのが法人税の大幅引き下げだ。それが第2の課題である。現在、日本の法人税率は25.5%に復興特別法人税2.55%を上乗せして28.05%となっており、これに地方税などを加えた法人の実効税率は38%余り。これは世界の主要国の中で米国に次いで2番目の高さだが、オバマ大統領は法人税の引き下げの方針を打ち出しているため、このままでは世界で最も高くなる可能性がある。

新興国の多くは法人税率を低く抑えて企業の成長を後押しするとともに、自国への外国企業を誘致しやすくしていることはよく知られているが、最近は先進国も相次いで法人税の引き下げに動いている。中でも注目されるのがドイツだ。ドイツの法人税率は10年ほど前までは35~40%だったが、2004年に25%に、そして2008年に15%へと一気に引き下げられた。これがドイツ企業の税負担を軽くし、国際競争力を強化させることに貢献した。欧州経済危機がの中にあってもドイツ経済は好調を維持していたが、その陰にはこうしたドイツ政府の政策があるのだ(詳しくは、本コラムVol.11『現地に見る欧州経済危機(3)~ドイツ経済強さの秘密』を参照)。

政府は来年度の税制改革で、給与や雇用を増やした企業を対象に法人税額を一部控除する方針だが(2013年1月20日現在)、そのような対策にとどまらず、ここはドイツに見習って、思い切って法人税率そのものの大幅引き下げを打ち出すべきだ。法人税の大幅引き下げこそ企業活性化のカギを握っている。

第3の課題は財政再建の道筋を示すことだ。今回の緊急経済対策では財源として約5兆円の国債を追加発行することにしており、2013年度予算でも歳出増加と国債増発が見込まれる。だが財政再建をどのように進めるかについては現段階では明確な方針が示されていない。前回の安倍政権では小泉内閣から引き継いだプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標に沿って財政運営が行われ、国債発行額も縮小しつつあった。なるべく早い時期にそうした予算管理と財政再建の明確な方針を策定する必要がある。逆にこれがないと日本国債への信認が低下し金利上昇につながりかねない。そのような懸念が表面化する前に財政規律を明確化することが求められる。

ここで指摘した3つの課題を実現することは、デフレ脱却と経済再生を具体化する上できわめて重要だ。安倍内閣は経済財政諮問会議と日本経済再生本部を司令塔として具体策をまとめることにしているが、そこでの議論が今後の日本経済の行く末を決めることになるだろう。

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*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(1月18日付け)を一部加筆修正したものです。

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