経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 61 日経平均株価15年ぶりの高値が意味するもの① ~「回復局面」から「長期上昇相場」へ新たな段階

(2015年3月3日)

日経平均株価がついに2007年7月の高値を抜いて、14年9カ月ぶりの水準にまで回復しました。これで株価の回復局面は新たな段階に入りました。バブル崩壊後、株価はこれまで3度の回復局面がありましたが、今回の回復は質が違います。

過去の回復局面を振り返りますと、1回目は1996年6月で高値は2万2666円でした。2回目は2000年4月で高値は2万833円、そして3回目が2007年7月の1万8261円と、いずれも前回の高値に届かないままで終わってしまっていました。このため、3回の回復局面の高値を線で結ぶと右肩下がりのラインになっていましたが、今回は初めて前回の高値を超えたことで、これまでの長期的なトレンドが転換したことになります。つまり、株価はこれまでの「回復局面」から前進して「長期的な上昇相場」の段階に進んだと見ることができるのです。

3度の株価回復の要因と日本経済の状況を見ても、今回との違いがわかります。1回目の株価回復は、前年に最高値をつけた円高が終焉したことと景気対策などが背景でしたが、バブル崩壊による金融機関の不良債権問題はまったく未解決のままでした。そして高値をつけた翌97年に一連の金融破たんが起きて、デフレに陥ったのでした。

2回目の回復はITバブルのおかげでしたが、98年と99年に小渕内閣が当時としては史上最大の景気対策を打ち出したことも株価回復を助けました。しかしそれでもデフレは一段と進み、不良債権処理も動き出したばかりで、ほとんど手つかずの状態でした。

3回目は小泉構造改革や米国の住宅ブームなどが背景です。不良債権問題もほぼ解決しました。しかしデフレからは脱却していませんでした。

このように3回ともバブル崩壊による構造的な問題が解決していない中で、景気対策や米国からの追い風などによって 一時的な株価回復となったものでした。しかし今回はアベノミクスによってデフレから脱却しつつあります。民間企業も構造改革に取り組み競争力を回復しつつあります。つまり景気対策などで一時的に持ち上げられているのではなく、構造的な改善が進んでいるという点がこれまでと根本的に違うのです。

もう一つ、過去3回と今回との重要な違いがあります。それは政策の方向です。1回目の1996年の高値は、橋本内閣が消費税の5%への引き上げを最終決定した時期です。消費税引き上げはすでに94年の村山内閣時代に法案が成立し、増税に先行して所得税などの減税を実施していましたが、予定通り97年4月から消費増税を実施することを96年6月に最終決定したのです。橋本内閣はまた先行減税の打ち切りなど、財政再建のために国民負担の増加も打ち出しました。株価が高値を付けた後下落に転じていったのは、こうした政策が影響したと言っていいでしょう。

2回目と3回目の局面では、日銀の金融引き締めが株価回復を終わらせる一因となりました。2回目の高値をつけた2000年と言えば、日銀が8月にゼロ金利解除を半ば強引に決定したことが思い出されますが、当時の速水総裁は4月頃からゼロ金利解除に積極的な発言をするようになっていました。

3回目も日銀が影響しています。2005年の郵政解散以後の株価上昇と景気回復を受けて、日銀は2006年3月に量的緩和を解除、同年7月にゼロ金利解除、2007年2月に利上げと続き、同年8月にもさらに利上げする意向でした。(これは、サブプライム危機が起きたため実施されませんでしたが)

こうした一連の動きが、2006年頃から株価の上値を押さえる要因となり、2007年7月で株価回復が終わったのです。この後の株価下落の最大の原因はサブプライム危機の表面化ですが、日銀の姿勢も大きく影響していたことは間違いありません。

これら3回に対して今回は、日銀は徹底して金融緩和を実施中です。政府も消費増税第2弾を延期するなど景気回復に向けて政策を総動員しています。3回目の2007年は第1次安倍内閣の失速も株価下落の一因となりましたが、今回はそのような可能性も今のところ小さいと見ていいでしょう。

こうしてみると今回の回復局面は長続きする可能性が高く、それに従って株価水準もかなり高くなることが期待できます。次の目標は2回目の高値である2万833円ということになります。

もちろん懸念材料は数多くありますので1本調子ではいかないでしょうし、株価回復をさらに確かなものにするには、さらなる政策の後押しが必要です。やはり成長戦略の充実と加速がカギとなるでしょう。

*本稿は、ストックボイスHPのコラムに掲載した原稿(2月20日付け)を一部加筆修正したものです。

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