経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 69 ギリシャ危機の真の原因と教訓とは

(2015年7月24日)

今週の相場はギリシャと中国の2大懸念材料が落ち着きを取り戻しました。しかしいずれも問題が解決したわけではありません。

ギリシャについて見てみます。ギリシャのチプラス政権はEUの財政改革案を受け入れ、議会も財政改革法案を可決しました。3年間で800億ユーロ余りの金融支援を受けることが決まったことで、ギリシャ危機は一応収束に向かうことになるでしょう。

しかしこの間の経済混乱の影響でギリシャの景気は今後一段と悪化する恐れがあり、このままでは3年後にまた同じことを繰り返すことになる可能性もあります。これからのギリシャにとって必要なことは、財政改革を確実に実行することはもちろんですが、それと並行して経済の活性化に取り組むことです。

この間の経過を見ると、ギリシャ経済がデフレに陥り成長がなかったことが危機を増幅していたことが分かります。

ギリシャの実質GDP成長率は2008年に0.4%減とマイナス成長に転落して以来、2013年まで6年間にもわたってマイナス成長が続いていました。それも2009年のマイナス4.4%、2010年マイナス5.4%、2011年マイナス8.9%と、年々マイナスが大幅に拡大して行きました。マイナス幅は2012年6.6%、2013年3.9%とやや縮小したものの、それでも大幅でした。その結果、この6年間でGDPは25%も縮小したことになります。こんな例は先進国ではほとんど例がありません。

実は一つだけ前例があります。世界大恐慌の1930年代で、米国は4年連続でマイナス成長に陥りました。1930年にマイナス8.5%とマイナス成長に転落した後、1931年にマイナス6.4%、1932年にはマイナス12.9%と二ケタのマイナス成長となりました。1933年もマイナス1.3%とやや小幅に縮小したものの、マイナス成長が続きました。

ギリシャは6年連続でマイナス成長となった後、2014年には0.8%増とわずかながらプラス成長になりました。しかし今年1-3月期は再びマイナス成長に逆戻りしており、このままなら今年は年間でもマイナス成長になる可能性が高くなっています。つまり現在のギリシャは大恐慌並みか、それ以下の経済状態とさえ言えるわけです。

そのような状態に陥ったのは、この間の財政緊縮が原因と言われていますが、それだけではありません。経済活性化のための政策がほとんどとられてこなかったのです。

一例をあげるとアテネ旧空港跡地の再開発です。2004年のアテネ五輪に向けて新空港が開業し、旧空港は2001年に閉鎖されたのですが、その後10年以上もの間、跡地再開発が全く手つかずのままです。3年前に現地を訪れましたが、広大な敷地は荒れ放題、空港ビルは廃墟となっていました。アテネの中心から車で約20分という便利な場所、エーゲ海を近くにのぞむ絶好のロケーションで、観光開発や住宅建設、工業団地など、さまざまな可能性を持つ貴重な資源を放置したままの光景に、ギリシャ危機の本質を見た思いがしました。

前政権まではここを民営化して跡地開発を進めるという方針ではありましたが、具体化が遅々として進まないまま、チプラス政権は民営化をストップしています。

ギリシャはもともと主力産業が農業と観光、海運ぐらいで、成長産業が見当たらないのですが、それでも旧空港の跡地開発のようにやるべきこともやってこなかったというのが現実なのです。

企業誘致もしかりです。ユーロ統合後に多くの有力企業は東欧諸国などに工場進出を活発に進めましたが、ギリシャにはあまり目立った進出はありませんでした。それだけギリシャが投資先として魅力を感じない国になっているわけで、こうしたことがギリシャの経済成長を阻む一因となっていると言えます。

したがって今後はギリシャが経済運営の基本から改めて、経済構造そのものを立て直し経済を活性化させていく必要があります。それなしには財政再建を成し遂げることもできないでしょう。(今回のEUの財政改革案には、国有財産を債権団の管理下に移し民営化を進めることになっています。)

そしてこのことは日本にとっても重要な教訓を与えています。日本も財政健全化が大きな課題となっていますが、その前提として経済成長が不可欠だということです。改めて成長戦略の重要性を確認したいと思います。

*本稿は、株式会社ストックボイスのHPに掲載したコラム原稿(2015年7月17日付)を一部修正したものです。

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