経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 65 「好景気を知らない世代」と「日経平均株価2万円」

(2015年5月8日)

今年も新学期の季節がやってきました。私が教鞭をとっている大阪経済大学でも今週から新学期が始まり、キャンパスは活気にあふれています。毎年のことですが、私はこの雰囲気が大好きです。学生たちが充実した大学生活を送って、しっかりと経済学を学んで社会に巣立って行ってもらいたいと強く願っているところです。

学生たちと接していて、つくづく感じるのですが、彼らは生まれてこの方、「好景気」というものを事実上経験したことがありません。厳密に言うと、ITバブル期やサブプライム危機以前の景気拡大期は経験しているはずですが、まだ子供の頃でしたから、経験がないのと同じです。彼らはほとんど不況とデフレ経済の下で育ち、「デフレ・マインド」が身についている世代です。幸い、最近は就職戦線に明るさが出てきていますが、入学直後の1年生でさえ就職のことを気にしているような状況です。ですから「アベノミクスで景気回復」と言ってもピンとのないのかもしれません。

これと似たようなことが投資家や市場関係者の世代についても言えるのではないかと感じます。もちろん、今の学生よりはるかに上の世代ですが、それでもバブル以後に入社した人、投資を始めた人がほとんどでしょうから、本格的な上昇相場を経験したことがないと思われます。

その意味では、今回の「2万円」目前まで回復した相場にはエキサイティングな気分になると同時に、「果たしてこれが続くのだろうか」という不安も大きくなっているのではないかと推察します。ほとんど経験したことのない株価水準にいることが何か落ち着かないのかもしれません。その一方で、過去に何度か株価急落を経験しているだけに、「また株価が急落するのではないか」との不安が頭から離れないようです。

現在の「2万円」と言う株価水準は、ちょうど2000年当時の「トラウマ」を思い出させます。ITバブルによって日経平均は1999年~2000年に急上昇し2000年4月12日に2万833円の高値をつけました。しかし株価上昇はそこまで。その3営業日後の4月17日には1400円も下げて2万円割れ、翌日の4月18日には1万9000円をも割り込むという急落ぶりでした。そこからあとは坂道を転がり落ちるような下落が続いたのでした。

今、その2万円の大台目前。高所恐怖症の症状が出るのも無理からぬところではあります。しかし現在は2000年当時とも2年前とも経済環境が違うということは改めて強調しておきたいと思います。

2000年当時はITバブルで景気が良くなっていたとは言っても、その名の通り、IT分野に偏っていました。経済全体で見れば不良債権問題は未解決でしたし、デフレは進行中でした。デフレ脱却どころか、物価下落が大きくなっていく途上でした。米国のIT景気もすでに急速にブームが去って株価も急落し始めていました。そんな中で、日経平均が高値をつけた4月ごろ日銀はゼロ金利解除の姿勢を見せ始め、4月中旬以降に株価が急落していったにもかかわらず、ますますゼロ金利解除の姿勢を強めました。

今日は全く逆です。すでにアベノミクスによって景気回復は着実に進み、少なくともデフレ状態ではなくなってきています。政策も方向も、追加緩和があるかどうかはともかく、少なくとも引き締めはあり得ません。米国経済もやや弱さがあるものの、少なくとも「急落」という状況ではありません。何よりも日本企業が変わり始めています。

したがって今回の「2万円」はさらなる上昇への通過点です。一時的な調整は当然ありうるでしょうが、長期的な視点でみれば、長い上昇相場がすでに始まっていると見ています。「好景気を知らない世代」が景気回復を実感できる時代がもうすぐそこまで来ていると言えるでしょう。

*本稿は、株式会社ストックボイスのHPに掲載したコラム原稿(2015年4月10日付)を転載したものです。

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