経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 64 日経平均「2万円」目前~日本経済の歴史的転換

(2015年3月26日)

株価上昇の勢いは衰えず、日経平均2万円が目前に迫ってきました。今回の株価上昇は単に「回復」という次元を超えています。バブル崩壊以来、長年にわたって続いてきた「下落」と「低迷」という基調そのものが「上昇」に転換したと見ています。それは、日本経済が長期の低迷から脱して本格復活に向かおうとする歴史的転換を背景にしたものだからです。このことは、すでにさまざまな場面で何度か指摘してきましたが、あらためて強調したいと思います。

最近、そのような日本経済の構造的な変化を象徴するニュースが2つありました。一つは春闘での賃上げ回答です。自動車や電機の大手が軒並み過去最高のベアを回答したことで、今年の賃上げ率は2%台後半から3%前後になる見通しとなってきました。消費者物価は原油安の影響で上昇が鈍化していることに加えて、4月からは消費増税による物価かさ上げ分がなくなります。したがって賃上げ率から物価上昇率を差し引いた実質賃金はプラスに転換する可能性が高くなりました。そうなれば、多くの人が賃上げを実感できるようになり、景況感の改善や消費増加につながるでしょう。

今年の賃上げには、日本企業の経営姿勢の変化がうかがえるという点でも重要です。これまで企業は厳しい経営環境を乗り切るために構造改革を断行してきた結果、業績が向上し、今回の賃上げが可能になったというものです。少なくとも大手はそれだけの賃上げが可能なぐらい競争力が回復したことを示しています。内部留保を優先させる傾向が強かった従来の経営姿勢から、利益を次の成長のために有効に使うという積極姿勢に変わってきたわけで、経営者も自信を取り戻したことの裏返しでしょう。この経営者の姿勢の変化は賃上げだけでなく、設備投資の増加などにも表れてくるものです。

もう一つのニュースは公示地価です。総論的には「全国の商業地は7年ぶりに下げ止まり」「大都市圏で上昇目立つ」「全用途では5年連続でマイナス幅縮小」などといったところです。それらはその通りなのですが、私は地方圏(3大都市圏以外)に注目しました。

発表によると、2015年の地方圏(全用途)の平均は1.2%下落で、1993年以来23年連続でマイナスとなりました。これだけ見ると、相変わらず大都市圏と地方の地価の二極化が進んでいるようですが、実は1.2%という下落率は1995年以来20年ぶりの小ささなのです。前年との比較でも、3大都市圏は前年と同じ0.7%上昇でしたが、地方圏はマイナス1.7%から同1.2%へと下落率が0.5㌽縮小しています。

特に商業地の下落率はマイナス2.1%から同1.4%へと大幅に縮小しており、中でも地方中核都市(札幌、仙台、広島、福岡)は2.7%上昇となり、東京圏の上昇率(2.0%)より大きくなっています。

つまり、地価の上向の動きは大都市圏から地方へと着実に広がっているのです。地価の動向は資産デフレからの脱却度合いを測るうえで重要ですが、その意味では株価の後を追いかけるように地価の面でもデフレ脱却への動きが進んでいると言えます。

仕事柄、地方に出かけることも多いのですが、「アベノミクスと言っても景気回復の実感がない」とか「株価が上昇してもどうせ一時的」などという声をよく聞きます。たしかに地方の中小企業にまで景気回復の恩恵が及ぶのは時間がかかりますから、このような声が出るのはある程度やむを得ないかもしれません。しかし、もし時代の転換に目を向けずに「どうせダメだろう」と従来の発想だけで見ていると、時代の変化に取り残される恐れがあるのではないでしょうか。

これはもちろん「楽観的になれ」などと言っているのではありません。我々日本人は、長年の経済低迷の中で物事を悲観的に見るクセが身についてしまっています。まさにデフレ・マインドです。前向きな動きがあっても、先行きになかなか確信を持てないという人は多いのではないかと思います。そのような“呪縛”と言うか思考回路から脱して、目の前で起きている変化を素直に読み取ってほしいと思います。

*本稿は、ストックボイスHPのコラムに掲載した原稿(3月20日付け)を一部加筆修正したものです。

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