経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 49 大量リコールに揺れるGM――トヨタとの大きな違い

(2014年4月2日)

10年以上前から組織的隠ぺい?

米国のゼネラル・モーターズ(GM)が大量リコール問題で揺れています。今年2月、過去に販売した乗用車7車種でエンジン点火装置の不具合が原因でエアバッグが作動しない恐れがあるとして162万台のリコールを行いました。

問題は不具合そのものより、実はGMは開発段階の2001年から不具合を認識していたこと、販売後の2004年にも購入者からの苦情があり、社内でもリコールをすべきだとの声が上がっていたこと、そして何よりも重大なのはその間に12人の死亡者が出ていることです。死亡者数については、「本当は300人以上」という調査会社の指摘もあります。

つまり、GMは10年以上にわたって組織的隠ぺいを続けてきたのではないかとの疑惑が浮上したのです。少なくとも事態を放置し続けたといえるでしょう。

これをうけて、1月に就任したばかりのメアリー・バーラCEOは品質に関する再調査を命じ、その結果、同じ不具合でリコールの台数を増やしたほか、別の不具合が他の車種でも見つかり、相次いでリコールを発表しました。4月2日現在でリコール台数は合計650万台に達しています。これは新CEOによる再調査の指示がなければ表面化しなかった可能性があるわけで、ここにもGMの対応の遅れが表れています。米議会はこの問題に関する公聴会を開き、バーラCEOに証言を求めました。検察当局も動き出していると報道されており、今後まだ広がる可能性があります。

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トヨタはリコール問題で真摯な対応――技術的欠陥・過失は無し

このリコールを聞いて、2009年~2010年のトヨタのリコール問題を思い出した人が多いと思います。しかし報道を見る限りでは、今回のGMのリコールとトヨタの問題はかなり違うと感じます。

トヨタの場合、問題となったのは「意図しない急加速」でしたが、そのほとんどは「架空」のものであり、米テレビ局のねつ造まで加わったものでした。しかし当時はトヨタたたきの様相を呈し、その影響でトヨタの米国での販売は急減し株価も急落しました。

今となっては、トヨタに技術的な欠陥や過失はなかったことが明らかとなりましたが、それでもトヨタは先日、米司法省に12億㌦(1200億円)を支払うことで合意しました。トヨタに対しては集団訴訟も起きており、こちらにもすでに11億㌦の和解金を支払っています。

トヨタ側に欠陥や過失がなかったのですから、本来ならこうしたおカネを支払う必要はなさそうなものですが、トヨタとしてはこの問題に早く決着をつけて本業に専念したいとの判断と見られます。

当時のトヨタは確かに部分的には情報開示で後手に回る場面もあり、それが批判される一因となったのですが、全体としては真摯に対応していましたし、何よりも何かを隠ぺいしていたわけではなかったのです。 もともと隠ぺいすべきことはなかったのですから。

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GMの歴史は「驕りの歴史」

しかし今回のGMのリコールは、報道の通りなら重大な問題です。今回の一連の経過を見ていると、GMという企業のある種の体質を感じます。それは「驕り」です。かつて1950年代に「GMにとって良いことは米国にとっても良いことだ」と言い放った社長がいました。この発言に象徴されるように、GMの歴史には「驕り」という言葉が付いて回ります。

1970年代に副社長までつとめながら権力闘争に敗れてGMを去ったジョン・デロリアンのインタビュー本「晴れた日にはGMが見える」を読むと、社内外のどんな意見や批判、前向きな提案までも拒否するなど、同社の驕り体質がよく表れています。

ちなみに、このジョン・デロリアンという人はGMを退社後、自ら自動車会社を設立しましたが、そこで開発したのが、映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」に登場するタイムマシン「デロリアン」のモデルになった車です。

1980年代には、ジャーナリストのデビッド・ハルバースタムが名著「覇者の驕り」で、GMなど米ビッグスリーの驕りによって日本車の攻勢に敗れていった姿を描いています。

最近では、2009年の破たん直前に「驕り」を感じる場面がありました。リーマン・ショック後にGMの経営再建問題について開かれた議会公聴会で、当時のCEOは「GMが破たんすると米国経済に深刻な影響を与える」と、まるで脅すような発言で政府に支援を求めたのでした。「だからGMを救済すべきだ」と言わんばかり。いわば、50年代の社長発言の逆バージョンです。そのCEOは公聴会に出席するため自家用ジェット機でワシントン入りし、批判を浴びたことも記憶に新しいところです。

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リコールの背景にも驕り?――企業体質の改革が急務

こうした姿勢は破たんと再建を経て変化したように見えていましたが、今回のリコール問題の背景に「驕り」があるとすれば、長年にわたって形成されてきた企業体質は簡単には変わっていなかったということなります。

限られた報道だけから企業体質まで断ずるのは早計かもしれませんが、そうだとすれば、GMはリコールそのものの対応だけでなく、企業体質の改革が急務といえるでしょう。グローバル競争が激化している今日、このような驕り体質が世界で通用するはずがありません。

トヨタはリコール問題で米国であれだけ叩かれ販売も落ち込んだにもかかわらず、短期間で業績を回復させ、2013年には2年連続でGMをおさえて販売台数世界1位となっています。これは、トヨタに技術的な欠陥や過失がなかったこと、そしてそのことを米国と世界の消費者が理解したためですが、それは同社の謙虚な姿勢と懸命な努力があったからこそなのです。ここにGMとの大きな違いを見ることができます。

GMはすでに再上場も果たし経営的には復活を遂げたかに見えますが、このような企業体質をひきずったままでは、消費者の信頼を取り戻すことは困難でしょう。GMが真の意味で優良企業として再生できるかどうか、初の女性CEOとして注目を集めるメアリー・バーラCEOの手腕が試されています。

*本稿は、ストックボイスTVのHPに掲載されたコラム(2014年3月28日付け)を加筆修正したものです。

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