経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 11 「現地に見る欧州経済危機(3)~ドイツ経済の強さの“秘密”」

(2012年2月14日)

法人税引き下げ――税率を40%から15%に

昨年末の欧州取材では、ギリシャ、スペインなどの経済危機が深刻化する一方で、ドイツ経済の強さが目立った。最近はさすがにドイツも景気が減速してきたが、それでも2011年の実質GDPは3.0%(IMFの実績見込み)と高い伸びを確保したもようだ。失業率も月を追って低下しており、昨年12月は5.5%だった。スペイン22.9%、ギリシャ19.2%などと比べると天と地ほどの差がある。

これほどドイツ経済が堅調なのは、ユーロ統合とEU拡大によって域内向けの輸出が伸びていたことに加えて、欧州経済危機によるユーロ安でユーロ域外向けにも輸出が伸びたことなどが要因だ。これは多くの識者が指摘するところだが、実はその背景にはさらに重要な要因がある。政府がドイツ企業の国際競争力強化と経済活性化に積極的に取り組んできたことである。

その一つが法人税の引き下げ。ドイツの法人税率は2000年までは35-40%だったが、2004年に一律25%に引き下げ、さらに2008年には15%に引き下げた。企業の税負担を一気に軽くして企業の競争力を高めるとともに、国内企業立地を促進するのがねらいだ。

ちなみに日本の法人税率は現在30%。つまりドイツの企業は日本企業の半分の法人税で済んでいることになる。もっとも企業の税負担という観点では、法人税率より実効税率で論ずるのが適切だ。実効税率とは法人税など国税のほかに地方税なども含めた税負担全体の割合を示すもので、それで比較するとドイツが約29%に対し日本が約41%。やはり差は大きい。短期間で税負担が軽くなったドイツ企業が国際競争の場で有利になったことは間違いない。

ドイツ政府は法人税引き下げのほかにも国際競争力強化と経済活性化に取り組んできた。国内への投資を積極的に受け入れグローバル企業を誘致したことなどから、輸出増加と雇用拡大を加速させた。EU統合とユーロ統合のメリットを取り込むことが出来たのも、こうした政策があったればこそなのである。

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東西統一以来、競争力強化と経済活性化に取り組む

さらにさかのぼれば、1990年の東西ドイツ統一以来、経済発展の遅れていた旧東ドイツへの集中的な援助や開発を進めた。その負担で一時は経済悪化に悩んだ時期もあったが、やがて旧東ドイツの底上げに成功、それを通じてドイツ全体として経済の足腰を強化することにつながったのだった。今では旧東ベルリンの町を歩いても、統一前の面影を残すものは少ない。ビルや商店街などの街並み、行き交う車、人並みなど、旧西ベルリンとほとんど変わらない。今となっては当たり前の光景だが、それは膨大なコストを支払って統一後のドイツ経済を立て直した結果なのだ。

ベルリンのブランデンブルグ門。かつては門の手前にベルリンの壁があり、ここから壁の崩壊が始まった。今では大通りに整備され、多くの車が行き交っている。

フランクフルトにあるECB(欧州中央銀行)本部ビル。夕暮れ時、ユーロの先行きを象徴するかのようにビルの上層部に霧がかかっていた。

今日のドイツ経済の強さは、こうした歴史的な蓄積の上に成り立っている。だからこそ、ドイツ人は自国の経済に自信を持っており、逆にギリシャやスペイン、イタリアなどに対し「自助努力が足りない」と厳しく批判する。「自分たちは自力で東西ドイツ統一という難事業を成功させてきた。欧州で最も経済が好調なのも自分たちが努力してきたから。それに引き換え地中海の人たちは……」と言うわけだ。「地中海の人たち」という表現に、南欧諸国への批判と皮肉が込められている。

だがこのようなドイツに対して他の国から反発が強まっているのも事実だ。「EU統合、ユーロ統合のメリットを独り占めしている」「ギリシャなどへの姿勢が厳しすぎる」など。EU域内の経済格差と同時に、このような国民意識の格差を埋めていけるのか、欧州経済危機の根の深さを実感させられた。

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日本にも教訓――経済活性化策こそ「不退転の決意」で

ところで、ドイツがこのように強さを発揮していることは日本にとって貴重な教訓を与えてくれている。日本経済が低迷から脱するには、ドイツがとったような経済活性化策が必要なのだ。

前述のように、日本の法人税率はドイツの2倍も高い。実はグローバル化が進む中にあっては、法人の税負担率は企業の国際競争力に大きく影響する。成長著しい中国の実効税率は25%、韓国は24%、シンガポールは17%などと低い水準にある。もちろん、いずれも政府が国際競争力強化のために政策的に低く抑えているのである。逆に、日本の実効税率は世界でトップクラスの高さ。日本企業は重いハンデを背負わされてグローバル市場で競争しているようなものである。

日本では現在、消費税引き上げが最重要テーマになっているが、本来なら法人税引き下げこそ最重要なのである。消費税引き上げの論拠の一つとして、欧州の消費税(付加価値税)は日本より高いことがよく指摘されるが、法人の実効税率は日本より低いことを忘れてはならない。たしかに日本が膨大な財政赤字を抱えている現状では法人税引き下げなど非現実的に聞こえるかもしれないが、今のように企業の税負担が重いままでは経済の停滞が続くことになる。

もちろん法人税だけではない。ドイツのように、経済活性化を国の政策の主軸に据えて、企業の負担軽減と競争力強化を進めるべきだ。これこそが「不退転の決意」で取り組むテーマだろう。

(写真はいずれも筆者撮影)

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