経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 52 米景気回復は本物か~雇用改善の背景に構造変化あり

(2014年7月18日)

7月3日の木曜日、6月の米雇用統計が発表されました。雇用統計は通常は金曜日の発表ですが、今回は金曜日の7月4日が独立記念日で祝日のため、一日早い発表となりました。

米国民にとって独立記念日は数ある祝日の中でも特別な存在です。ニューヨークでは毎年イーストリバーで大々的に花火が打ち上げられ、街中が盛り上がります。私がニューヨーク駐在の頃、住んでいたマンションの最上階から花火を眺めることができたので、マンションの住人たちが集まって花火を楽しんだものでした。

今回の雇用統計は、そんな独立記念日の前祝いとでも言いたくなるような結果でした。非農業部門の雇用者数は前月比28.8万人の増加となり、市場予想の21万人を大きく上回りました。また4月分の雇用者数の増加もこれまでの28.2万人から30.4万人に、5月も21.7万人から22.4万人へと上方修正されました。

米国では前月比20万人増加が雇用改善の目安とされていますが、これで5か月連続で20万人を超えました。これはリーマン・ショック後では初めてです。

失業率も6.1%で、前月から0.2ポイント低下し、リーマン・ショック時の2008年9月以来の低水準となりました。

米国の雇用改善は着実に進んでいる、というよりも、回復に弾みがついてきたと言ってもよさそうな勢いです。これを受けてNYダウも初めて1万7000㌦台に乗せました。

私は以前から米国経済について強気の見方をしていますが、その根拠は米国の経済構造そのものが強さを取り戻していると分析しているからです。それは主に3つの点からです。

第1は、IT革命です。この分野では米国が圧倒的な力を発揮し、世界経済をけん引しています。ITの技術革新は数多くの創造的な製品やサービスを作り出し、新たな産業や雇用を生み出しています。それが経済の好循環につながっているのです。

第2は、シェール革命の影響です。安価なシェール原油やシェールガスの国内生産が増加しているため、燃料費や原材料コストが低下しています。これは、米国企業の競争力回復につながっています。また中東産原油などの輸入が減少しているため米国の貿易赤字・経常赤字が減少し始めています。膨大な経常赤字は米国経済の最大の構造的弱点と言われていましたので、このことは構造的弱点の改善にもつながる重要な変化です。

第3は、製造業の国内回帰の動きです。アップルが米国内で生産を再開するとのニュースは話題を呼びましたが、他にも自動車、石油化学、製鉄、航空機など米国の基幹的な製造業で工場建設が相次いでいます。その背景はシェール革命の他に、中国シフトの見直しといった要因もあります。

これら3つはお互いに関連しながら、米国経済に構造的な変化をもたらしているわけです。雇用の改善もこれが背景にあるからこそ、持続しているのです。

しかしこれほど米国の景気が順調となると、今度は利上げが早まるのではないかとの心配が出てきそうです。ただイエレンFRB議長は2日の講演で、「金融政策の焦点を『物価安定』と『雇用の最大化』から外す必要はないと考えている」と語っています。これは雇用統計発表前の発言ではありますが、早期利上げには慎重な姿勢を示したと見ることができるでしょう。

米国の景気が順調で、なおかつ利上げを急がないとすれば、株式市場にとってはいい条件が揃うことになります。

国内に目を転じれば、株価が徐々に水準を切り上げているものの、もう一段の上昇にはやや材料不足の感がありました。しかしそこに米国の好条件が追い風になれば、日経平均も上抜けていける可能性は十分にありそうです。サマーラリーに期待しましょう。

*本稿は、ストックボイスHPのコラムに掲載した原稿(7月4日付け)を加筆修正したものです。

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