Vol. 34 連載・マスコミとの付き合い方
第1回 広報は「窓口」にあらず
(2013年11月8日)
いきなりで恐縮ですが、各企業の広報担当者の皆さん!「広報はマスコミの取材窓口」と思っていませんか? たしかにその通りではあります。しかしその考えを捨ててほしいのです。連載開始にあたり、まずそのことを強調したいと思います。
私は日本経済新聞の産業部記者を経て、テレビ東京のWBS(ワールドビジネスサテライト)などのコメンテーターやプロデューサーをつとめ、長年にわたり、数多くの企業を取材してきました。日経に入社したばかりの頃は、広報部や広報課のない企業がまだ数多くあり、専任の広報担当者を置いていない企業も少なくありませんでした。そのような時代には、社内のどこかに「マスコミの取材窓口」があれば事足りていたかもしれません。
しかし今はそんな時代でないことは言うまでもありません。企業は出来る限り情報を開示していくことが求められており、広報の重要性は増すばかりです。
このような中で「取材窓口」という考えをしていると、受け身の発想に陥りがちです。マスコミから取材の申込みがあったらそれをセットするという発想にとどまっているのではなく、企業の側から積極的に情報を発信していく「攻めの広報」が必要です。広報部はそうした情報発信を担う前線本部なのです。
広報部課が発信する情報の多くはメディアを通じて消費者や顧客、投資家、地域社会などに届けられます。それが商品の売り上げや業績、株価などに影響し、企業イメージや企業ブランドの向上にもつながるわけで、広報は企業戦略の柱となるものです。
そこで、どのような情報を、どのように発信するかが広報担当者の腕の見せ所になるでしょう。メディアを上手に活用して、効果的に情報発信することに知恵を絞ってみてください。
企業からの積極的な情報提供は、メディアの側も歓迎です。もちろん個々の情報について価値判断はそれぞれのメディアが自主的に行いますが、広報担当者との信頼関係を築くことをのぞんでいます。
もう一つ、私が重視している点があります。経済広報センターが毎年発表している「生活者の企業観に関する調査」によると、「企業を信頼できる」「ある程度信頼できる」と答えた人の割合は2010年度の51%から、2011年度43%、2012年度39%と、2年連続で大幅に低下しています。
企業への信頼感は資本主義経済の健全な発展の基盤をなすものですが、これほど信頼感が低下していることは憂慮すべき現象だと思います。その意味で、普段から積極的な情報発信を行うことを通じて信頼感を高める努力は、社会的にもきわめて重要です。
この面で広報の果たす役割は大きいものがあります。自社の広報効果を高めるだけでなく、このような社会的な意義も大きいということを、ぜひ意識してほしいと思います。
*一般財団法人・経済広報センター発行の『経済広報』2013年10月号(10月1日発行)に掲載された原稿を転載したものです。
http://www.kkc.or.jp/pub/period/keizaikoho/pdf/201310.pdf