経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 56 初の日銀総裁テレビ生出演から見えること

(2014年9月18日)

このところ日銀の動きに目が離せなくなってきました。特に9月11日(木)は2つの大きな動きがありました。

まずこの日の昼間、黒田総裁と安倍首相が会談しました。会談の内容は明らかにされていませんが、会談後、黒田総裁は記者団に「物価目標の達成に困難をきたすような状況が出てくれば、躊躇なく追加緩和だろうと何だろうと調整を行っていく」と語りました。この発言がきっかけで円は1㌦=107円台に下落しました。

黒田総裁はすでに前週4日の記者会見で消費税10%への引き上げをめぐって「財政健全化が進むことは日本経済にとって極めて重要」と強調、「増税を行わない場合、政府の財政健全化への意思が市場から疑念を持たれると、政府・日銀として対処のしようがない。他方、増税で経済を落ち込んでも財政・金融政策で対応できる」と追加緩和の可能性を示唆していました。

これと11日の発言を合わせて考えれば、政府が補正予算・日銀が追加緩和という流れができつつあると見てよさそうです。安倍・黒田会談はそれを印象づける効果があったわけです。

もう一つは、黒田総裁がテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」に生出演したことです。

黒田総裁はいつもの記者会見よりにこやかな表情で「今の円安は日本経済の実態に即している。日本経済にマイナスにはならない」と述べていました。この発言を受けて、円相場が11日午後11時過ぎに再び107円台に下落したのが印象的でした。

そして肝心の金融政策については「現時点で何かしなければならないとは思っていない」と強調しながらも、その一方で「必要があれば追加緩和を行う」と繰り返しました。また「日本には金融資産はたくさんある。追加措置の限界があるとは思わない」とも述べ、国債買い入れ以外の手段を幅広く検討していることもうかがわせました。

4日の記者会見や同日昼間の発言に比べると、全体として追加緩和に前向きな姿勢がより強くにじみ出ていた印象でしたし、何よりも総裁がテレビで直接語りかけたという点が新鮮でした。

実は、日銀総裁がテレビに生出演するのは初めてで、大げさに言えば画期的な出来事です。かつてバブル崩壊以前の昔のことですが、「衆院解散と公定歩合はウソを言ってもいい」などと言われた時代がありました。公定歩合とは当時の金融政策の中心となっていたものです。現在の常識から思えばありえない話ですが、当時の日銀は金融政策についてウソはともかくとして「情報を出さない」ことが基本的な姿勢でした。

その後、日銀は市場との対話を重視し情報を積極的に発信するようになりました。特に1998年に新日銀法が施行されてからは、その姿勢は一段と強くなったという歴史を歩んできています。

特に黒田総裁になってからは、就任後初の記者会見でパネルを使って異次元緩和について説明し、今年に入ってからは記者会見の中継に踏み切るなど、情報発信で新機軸を打ち出していました。

それでも総裁がメディアの個別取材に応じる機会はきわめて限られており、ましてやテレビの生出演はゼロでした。そのような経過をずうっと見てきた私としては「ついに総裁が生出演!」というのが率直な感想です。しかもそれが、自分の古巣であるテレビ東京、長年担当していた「WBS」というところに感慨深いものがあります。

つい個人的なことを書いてしまいましたが、FRB議長がテレビに生出演したことは聞いたことがありませんし、記者会見の頻度など日銀の情報発信ぶりは今や各国中央銀行をしのぐほどになっています。今後もさらなる情報発信を期待したいと思います。

ここへきての市場の動きは株価上昇と円安のトレンドが一段と鮮明になっています。今後は従来以上に日銀の動きに注目です。

*本稿は、ストックボイスHPのコラムに掲載した原稿(9月12日付け)を加筆修正したものです

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