経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 21 重要性高まるテレビの経済報道~フジテレビ検証番組出演で強調

(2012年11月13日)

テレビ報道では比重低い「経済」
~本当は最も身近なニュース

先月のことになるが、フジテレビの『新・週刊フジテレビ批評』(毎週土曜日・午前5:00~6:00)という番組にゲスト出演し、「テレビの経済報道のあり方」について語る機会があった。この番組はフジテレビが視聴者や外部の意見などをもとに自社の番組を検証する番組で、経済報道に長年たずさわってきた者として意見を求められた。番組で発言した内容を中心に、日ごろ感じていることをまとめてみたい。

そもそもテレビ東京以外の各局では経済報道の比重は低い。経済というと難しくてよく分からないと思っている視聴者は多いだろうし、テレビ局側にも経済ニュースは数字やデータが多くて絵になりにくい、難しくて取り上げにくいなどといった意識が根強いことが原因だろう。ニュース番組といえども視聴率競争の渦中にあるため、視聴率を取れそうにない経済報道にはあまり力を入れてこなかったのが実情だ。

しかし世の中の経済の動きというものは、一般の人々の仕事の中身から雇用、給料、日常の買い物に至るまで、我々の生活に大きな影響を及ぼしている。本来は最も身近なニュースのはずだ。テレビ各局はテレビ東京のように経済中心である必要はないが、それでももう少し経済報道を充実させてもいいのではないかと思う。

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わかりやすく伝える工夫が必要
~テレビ東京「WBS」で長年の経験

ただそれには工夫が必要なのも確かだろう。経済データをずらずらと並べるだけでは、たしかに見てもらえないだろうから、伝え手側が知恵を絞らないといけない。その一例として番組で話題になったのが、10月に東京で開かれたIMF・世銀総会のニュース。フジテレビをはじめ各局ともにこの会議は報道していたが、どちらかと言えば通りいっぺんの放送で終わっていた印象だ。だがせっかく48年ぶりに日本で開催されたのだから、もう少し取り上げ方に工夫があっても良かったと思う。

例えば、日本が円高阻止に向けてどう動いたかという視点で会議の周辺を取材し企画でまとめることができたかもしれない。あまり大きく報道されなかったが、実は同会議の開催期間中にバーナンキFRB議長やラガルドIMF専務理事などが相次いで前原経済財政担当大臣を訪問し意見交換している。会談で前原大臣は円高が日本経済に与えるダメージについて理解を求めたのだが、一連の会議を通じて日本政府が意外に円高阻止に向けて動いた様子がうかがえる。それらを含めて「円高」をずうっと追って報道すれば、視聴者の関心をよりひきつけることが出来たのではないだろうか。

実は、テレビ東京の経済報道も長年にわたる試行錯誤の連続だった。私が新聞からテレビに移った約20年前、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」を担当した当初は、今ほど番組の認知度が高くなかったので、苦労したことを覚えている。経済をいかに分かりやすく伝えるか、どのようにしたら視聴者に経済に関心を持ってもらえるか、毎日悪戦苦闘した。

その頃WBSの特集で、ある自動車メーカーの工場から生中継したことがある。事件でもなんでもないのに夜11時過ぎに工場からの生中継など、おそらくテレビ史上初だったと思うが、考えてみれば多くの自動車工場では3交代・24時間操業が行われているのだから、一度やってみようと思いついたわけだ。番組では、最終の組み立てラインで作業をしている様子を見せて、ラインの横から番組レポーターがその作業内容や工程の説明をした。当時は日米自動車摩擦が激しかった時期だったので、その日本の自動車がどのように生産されているかを生の映像で見せることによって、日本の自動車の強さの一端も伝えることができたと思う。

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経済の動き には“縦”と“横”がある

経済ニュースの特徴としてもう一つ指摘できることは、どのような経済現象や出来事でも必ず因果関係や背景があるということだ。表面ではよく見えないところでさまざまな要因が重なりさまざまな経過をたどって、それがある日、目立つ動きとなって現れる。だが多くのテレビ報道では、例えば株の暴落とか、金融機関や企業の倒産などがあると大きく扱うが、それまでの途中経過を報道していないので、視聴者はその背景をよく理解できないまま終わってしまうことが少なくない。

その代表例がギリシャ危機・欧州債務危機だ。多くの視聴者はギリシャや欧州の危機が世界中に大変な影響をもたらしていることは知っていても、どうしてそこまで危機が広がったのか、なぜ日本経済が影響を受けるのか、よく分からないと感じているのではないだろうか。この問題についてテレビのニュースでは、ギリシャで大規模デモがあったとか、その影響で株価が急落したなどの目立つ動きのあった時には比較的大きく扱うが、必ずしも普段から継続的に報道しているわけではない。

この問題は、“縦”と“横”で見ていくとわかりやすい。『新・週刊フジテレビ批評』でも披露したのだが、やはり出発点はリーマン・ショックだった。2008年9月のリーマン・ショックで世界経済が落ち込んだのに対応して、各国は大規模な景気対策を打ち出し多額の財政支出を行った。その効果で景気は2009年から回復に向かったが、それは各国の財政赤字拡大につながった。特に経済基盤の弱いギリシャでは2010年ごろから財政危機が深刻化した。この流れは時系列、つまり“縦”の動きである。

そのギリシャから南欧諸国、さらには欧州全体へと危機が広がり、それが米国、中国、日本と世界へと影響が広がった。これは“横”の動き。特に、中国経由の“横”の波及が意外と大きかった。中国にとって最大の貿易相手は、実はEUなのだ。そのため欧州の景気悪化で中国から欧州向けの輸出が急減した。最近の中国景気の急速な減速は欧州危機の影響が大きい。その中国景気の急ブレーキが日本の景気にも響いているというわけだ。

欧州危機には、もう一つの“縦”の要素が背景にある。EU統合・ユーロ統合だ。これは長くなるので簡単に指摘しておくと、ドイツなどとギリシャなど経済格差の大きい国々を一つの経済圏・通貨圏にまとめたことに、そもそも無理があったのではないかという点だ。そのために一国の危機が欧州全体の危機に広がり、危機をより深刻なものにしてしまったことは否定できない。

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役割と責任 高まるテレビの経済報道

このように複雑な世界経済の動きも“縦”と“横”で整理しながら見ていくと理解しやすい。テレビの経済報道でもこうした視点から、ニュースの節目ごとにもう少し親切に伝える余地はあると思う。

経済の動きはますます激しく複雑になっている一方で、そのような経済の動きは我々の生活に直結している。それだけに、一般の人々が経済について理解を深め、適切な判断力を持つことが従来以上に必要になっており、テレビの経済報道の役割と責任はますます高まっている。

そんな中で今回、フジテレビが検証番組である『新・週刊フジテレビ批評』で経済報道をテーマに取り上げたことは大変意義のあることだった。フジテレビをはじめテレビ各局がそれぞれの持ち味を生かしながら、 経済報道を充実させてくれることを願っている。

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