経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 25 アベノミクスはいよいよ本番~株価回復の意味するもの

(2013年3月19日)

「小手先」ではないアベノミクス

最近、こんなジョークがあるそうだ。大阪のキタ(梅田)とミナミ(難波)に並ぶ第3のターミナル・阿倍野のお好み焼き屋で「ミックス焼き」が人気で、その名は「アベノミックス」。でもそのお好み焼き屋の親父は「アベノミックス言うても大したことないで。所詮、コテ先や」

私はこの手のジョークはけっこう好きなのだが、オチが少々いただけない。なぜなら、安倍首相の経済政策、アベノミクスは決して小手先ではないからだ。アベノミクスはこれまで長期にわたって低迷を続けてきた日本経済を大転換させ得るものであり、実際にデフレ脱却に向かって大きく動き出している。

それを最もはっきり示しているのが株価である。日経平均株価は3月8日、ついにリーマン・ショック直前(2008年9月12日)の終値1万2214円を上回った。その後も連日のように高値を更新し、15日には1万2560円まで上昇した。世界の株価は米国だけでなく欧州の主要国もすでにリーマン・ショック直前の水準を大きく上回り、先進国では日本だけが遅れをとっていたが、日本の株価もようやく正常な水準に戻ったことになる。このことのもつ意味は大きい。

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4ヶ月で株価は45%上昇
~デフレ脱却を読む市場

株価の回復は昨年11月14日、当時の野田首相が衆院解散を口にしたことをきっかけに始まった。その日からこれまでの4ヶ月で、日経平均株価の上昇率は45%に達している(3月15日現在)。これほどの株価の上昇は近年にはなかったことだ。当初は、自民党の政権復帰と安倍首相の経済政策への期待感から株価が回復していたが、今では単なる期待感の域を超えている。市場は、アベノミクスが掲げるデフレ脱却と日本経済再生が現実性を帯びてきたと読んでいるのである。

そういえば昨年11月の衆院解散直後、野田首相はアベノミクスで株価が上昇し始めたことに対し「株価上昇の恩恵をうけるのは一部の富裕層だけ」と発言していた。この発言がいかに間違っているかは、事実が証明している。株価上昇が進んだことで企業心理が上向き、消費も上向いてきた。最近発表された各種経済指標を見ても、昨年10-12月を底に改善しているものが多い。株高自体が実際の経済活動を上向かせる効果をもつのだ。つまり、期待先行だったアベノミクスは実態がついてき始めているということなのだ。そしてそれがまた株価を上昇させるという好循環を生み出している。したがってこの株価上昇と景況感の改善は決して一時的なものではないと見ている。

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海外経済も好転
~米国株は史上最高値を更新

ちょうど幸いなことに、海外経済も好転してきている。最大の懸念材料だった欧州経済は、一時のような危機的な状況から脱している。昨年後半以降、ECB(欧州中央銀行)による南欧諸国の国債購入、金融機関への資本注入を可能にするESM(欧州安定メカニズム)の創設など、危機に歯止めをかける体制が出来上がり、これが市場に安心感を与えている。イタリアの政局など心配はたしかにまだあるが、再び昨年以前のように危機的な状態に戻る可能性は少なくなっている。これを反映して、イギリスやドイツの株価はとっくにリーマン直前を上回り、意外なことに史上最高値に近づいているのである。

何よりも顕著なのは米国経済の回復だ。NYダウは3月5日、5年5ヶ月ぶりに史上最高値を更新し、その後も連日の高値更新が続いている。各種経済指標を見ても、企業活動も消費もかなり強い数字が出ている。いつも問題となる雇用も着実に改善しており、景気の基調はかなり強い。リーマン・ショック以後、3度にわたる量的金融緩和が大きな効果を発揮したことは間違いない。またシェールガス・オイル革命によって米国のエネルギー・コストが劇的に低下しているという構造的な変化も起きており、持続的な景気回復を支えている。財政の崖問題はまだ解決していないなどの懸念材料はあるものの、大きく崩れる恐れは少なくなっている。

こうしてみると、日本の株価上昇は海外経済の好転という幸運にも恵まれた感がある。しかしその海外の好転は実は、アベノミクス効果の波及という面もあるのだ。このことはあまり意識されていないが、不振の続いていた日本経済が復活の兆しを見せるということは、世界経済にとっても好影響を与えるわけで、それが欧米の投資家の投資姿勢を一段と積極化させ、世界的な株価上昇の一因にもなっていることは間違いない。

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日銀新体制で金融緩和も本番
~現実になりつつある「大転換の予感」

こうして日経平均株価がリーマン直前の水準を回復したことによって、株価上昇は新たな段階に入ったといえる。それはアベノミクスの第2幕でもある。アベノミクスの「3本の矢」のうち「第1の矢」である金融緩和はいよいよ本番を迎える。日銀の黒田東彦新総裁と岩田規久男副総裁は国会で同意され、20日に就任する。日銀の定例金融政策決定会合は4月3~4日の予定だが、黒田新総裁はそれを待たずに、就任直後に臨時の会合を召集して新たな緩和策を打ち出す可能性がある。

また「第2の矢」の財政政策については、国会で来年度予算案の審議が本格化している。「第3の矢」の成長戦略も、これに大きくかかわるTPP(環太平洋経済連携協定)について安倍首相は交渉参加を15日に正式に表明した。

もちろん、デフレ脱却は簡単なことではないし、アベノミクスの実行にはまだ多くの課題がある。海外の懸念材料が多いことも確かだ。だが、デフレ脱却に向けて政策も実体経済も確実に動き出した。この大きな流れはもはやそう簡単に逆戻りできないところまで来たといえる。私は今年の年明けに本コラムで「2013年は大転換の予感」(1月22日付け)と書いたが、予感は早くも現実になりつつある。

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*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(3月15日付け)を一部加筆修正したものです。

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