経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 33 埼玉の中小都市で24年間増収増益――驚異のスーパー

(2013年11月8日)

日本経済が低迷を続けていた20年余り、多くの企業は業績悪化に苦しんできました。しかしその中にあっても地方で奮闘し、業績を伸ばし続けてきた企業は少なくありません。

その代表格が、埼玉県川越市に本社を置く中堅スーパーのヤオコーです。同県内を中心に関東地方の中小都市で123店舗(2013年3月末現在)を展開する東証第一部上場企業です。2013年3月期の売上高は2480億円(前期比4.5%増)、経常利益108億円(同2.2%増)ですが、これがなんと24年間増収増益なのです。1988年の株式店頭公開の2年後から増収増益を続け、24年間最高益更新中でもあります。2014年3月期も増収増益の予想で、記録を25年連続に伸ばす見通しです。

この24年間といえば、日本経済全体はもちろん、特にスーパーにとってはデフレによる販売単価の低下、コンビニの追い上げなど厳しい経営環境が続いていました。そんな中で、驚異的な業績を上げ続けてきた秘密は何でしょうか。

その答えは、徹底した地域密着です。川越市内のある店舗では、入り口すぐの一角に、地元で取れた新鮮な野菜を販売するコーナーを設け、その後ろ側の壁一面にはそれらの野菜を生産した農家の人たちの大きな写真と名前が並べて貼ってありました。写真はそれぞれ縦横1㍍はありそうな大きさです。最近は野菜などの生産農家の名前や顔写真を商品に添付するケースが増えていますが、こんなに大きな写真を、しかも何枚も並べて壁一面に貼り付けているのは初めて見ました。

ただ商品を売るだけではありません。それらの食材を使ったメニューやレシピを提案し、店頭で実演、試食できるようにしています。そこでは、買い物客の相談に乗ったり、惣菜の下ごしらえサービスなども行っており、ヤオコーは自らを「食生活提案型スーパー」と呼んでいます。

こうした地域密着の店舗運営を進めるため、同社がもう一つ徹底しているのが各店舗への権限委譲です。地域の産品や消費者のニーズなど地域の実情に応じて仕入れから販売、店舗運営に至るまで行えるよう、店長にすべて決定権限を与えています。

そして各店舗では、さらに権限を現場にまで移譲し、パート従業員にまで決定権を持たせています。パート従業員に任せることによって責任感と参加意識が向上し、生産性が上がるそうです。川野幸夫会長は「権限委譲も徹底してやるから効果がある。わが社ではパート従業員をパートナーと呼んでいます。パートナーさんのほとんどが各店舗の地元の主婦。つまり彼女たちの考えることが、地元の消費者の考えそのものであり、ニーズを最もよく分かっている。だからパートナーさんに任せた方が地元のニーズにあった店舗運営が出来るんです」。

地域密着は店舗立地戦略にも貫かれています。川野会長に「これだけ業績がいいのだから、営業エリア拡大や全国展開を目指すなどの考えは?」と聞くと「全く考えていません」ときっぱり。むしろ、現在の営業エリアの中で、まだまだ網の目は大きいため、それらをもっと細かく埋めていくのが基本戦略だそうです。この考えに沿って、2013年度中に10店舗の新規出店を予定しています。

こうした積み重ねが24年間連続増収増益を達成した原動力となっているのです。ヤオコーのこうした経営は、デフレ下にあっても地域密着、消費者ニーズを徹底して取り込むことによって成長を持続できることを示しています。

ヤオコーは一例に過ぎません。このような地方の企業は他にも数多くあります。それらの企業が日本経済を支えているのです。今後は景気回復が進み、地方の経営環境は好転していくことが期待されます。地方から元気を発信する企業がもっと増えて、日本経済復活の原動力になることを期待したいものです。

*本稿は、株式会社Fanetが運営する資産運用応援サイト「Fanet Money Life」の「今日のコラム」に掲載した原稿(10月30日付)を転載したものです。
http://money.fanet.biz/study/2013/10/24.html

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