新刊『徳川幕府の経済政策――その光と影』のお知らせ

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このたび、新刊『徳川幕府の経済政策――その光と影』(PHP新書)を上梓しました。

江戸時代の経済の動きをたどると現代と似ている点が多くあります。

1600年の関ヶ原の戦いで勝利し、1603年に幕府を開いた徳川家康は、徹底した大名統制を断行し、豊臣氏の滅亡を経て徳川による支配体制を確立しました。ただ、260年余りの長期政権を実現した背景には、家康の絶妙な経済戦略があったことはあまり知られていません。

その経済戦略を本書では「エドノミクス」と名付けました。大名の謀反を起こさせないような仕組みを作り、平和な世の中に移行したことで、本格的な経済発展が始まりました。具体的には、①江戸の発展②地方都市の発展③交通網・流通の発展④農業生産の増加⑤財政・金融政策の確立――の5本柱です。

これにより、5代将軍・綱吉の元禄時代まで‟高度経済成長‟が続いたのです。ちょうど太平洋戦争の敗戦によって平和な時代を迎えて、戦後復興、そして高度経済成長を実現した昭和の歴史と重なります。

そして‟元禄バブル”の崩壊とそれに続くデフレ政策によって、江戸中期以降の経済は長期低迷の時代に入りました。吉宗は在職後半にリフレ政策に転換したことでデフレ脱却に成功し、続いて田沼意次が今で言う構造改革に取り組みます。しかし田沼は失脚、新たに老中に就任した松平定信の緊縮策によってデフレに逆戻りするなどの変遷を繰り返しました。

まさに平成バブル崩壊とデフレ突入、その後のさまざまな改革の試みを思い起こさせる展開です。

このように江戸時代の経済は好景気と不況、インフレとデフレを繰り返し、幕府の経済政策も成功と失敗を繰り返してきました。そこには、令和の日本経済が復活していくうえで重要な教訓やヒントが詰まっています。

同時に本書では、江戸時代の「人」にも焦点を当てています。危機や困難に直面しながらも改革に邁進したリーダー、不況を乗り越えて事業を成功させた商人などの姿を描きました。彼らがどのようにしてピンチをチャンスに変えたかを知ることで、現代の我々も元気になれると確信しています。

筆者は、日本経済新聞とテレビ東京、そして現在に至るまで長年にわたって日本経済・世界経済について報道・解説していますが、現在のように変動が激しく先行きが読めない時こそ、歴史に学ぶことが重要だと痛感しています。家康も歴史を深く学び、その教訓を天下獲りと長期政権樹立に活かしたのでした。

歴史に学ぶという点では、過去の出来事についての誤った認識が広がっているケースも少なくありません。田沼意次のイメージはその典型です。本書では、江戸時代によく登場する多くの人物について、経済政策の観点から再評価を加えました。

「賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。一方的な先入観やイメージを排して歴史を正しく理解し、歴史の教訓を活かすことが重要なのです。

現代の私たちが日本経済を復活させるための知恵を、歴史から学べることは多いはずです。本書がその一助になることを願っています。

<目次>
序章  歴史は繰り返す!?――現代と重なる江戸の経済変動
第一章 家康の経済戦略 ‟エドノミクス”
第二章 幕府を揺るがした政治危機と大災害
第三章 ‟元禄バブル”の実相
第四章 正徳の治――‟バブル”崩壊でデフレ突入
第五章 吉宗の「享保の改革」――元祖・リフレ政策
第六章 田沼時代の真実――成長戦略と構造改革の試み
第七章 「寛政の改革」――超緊縮で危機の乗り切りを図るが…
第八章 「化政バブル」――‟最後の好景気”
第九章 「天保の改革」――‟最後の改革”だったが…
第十章 幕府崩壊と近代化の足音
終章  江戸から令和へ――経済復活のヒント 

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