経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 68 ギリシャと中国の気になる関係

(2015年7月13日)

ギリシャの国民投票で「緊縮NO」が大差で上回って先行きが一段と読みにくくなったことに続いて、中国株の急落が加わり、世界経済に暗雲が広がりました。まさにダブルパンチです。中国株急落は中国経済の構造的矛盾が噴き出たものでバブル崩壊の様相を呈していますが、ギリシャ危機再燃も中国株の下落を加速させる一因にもなっています。その一方で、EUと対立し危機にあえぐギリシャに対し中国は接近を図っており、両国のつながりが気になるところです。

EUによるギリシャ支援の期限だった6月30日の前日、中国の李克強首相がブリュッセルを訪問し、EUとの首脳会議で「中国が建設的な役割を果たす用意がある」と発言しました。ギリシャとEUの交渉に注目が集まっている最中だったため、この李首相の訪欧と発言は埋もれがちでしたが、見過ごすことのできないニュースでした。

中国はすでに言葉だけでなく、実際にギリシャで「建設的な役割を果たす」べく行動を始めています。その一例がアテネの郊外にある同国最大の港、ピレウス港への進出です。中国国営の最大手の海運会社・中国遠洋運輸(COSCO)は同港のうちコンテナふ頭の運営権をすでに取得済みで、これに続いてピレウス港全体の買収を計画中なのです。

同港はギリシャの前政権が財政再建策の一環として民営化を計画し、売却先企業を決める入札を実施していました。これには5社程度が名乗りを上げていましたが、COSCOは有力候補の一つとされていました。ところが今年1月に発足したチプラス政権は前政権の緊縮策やすべての民営化計画の見直し・撤回方針を打ち出し、ピレウス港の民営化計画もストップしました。

これに対し今年2月、中国の李克強首相はチプラス首相に電話し、ピレウス港の民営化を予定通り実施するよう要請しました。報道によれば、チプラス首相は「ピレウスの案件は協力事項の筆頭だ」と応じたというのです。両首相は4月にも電話会談し、ピレウス港の開発事業で協力することで一致しています。チプラス首相は「中国との協力を積極的に推進する」と発言、李首相も「中国企業のギリシャへの投資を促す考えを示したということです。

そしてこれらは単なる外交辞令ではないことが5月になって明らかとなりました。ギリシャ政府がピレウス港の民営化手続きを再開したとのニュースが伝えられたのです。それによると、もともと候補に残っていた5社のうち3社に最終入札への参加を求めたとのことです。もちろん、COSCOもその中に入っています。

最終的に売却先がどこになるかはわかりませんが、チプラス政権が他の民営化事業はストップしている中で、ピレウス港の民営化に動き出した背景に、やはり中国の存在を考えないわけにいきません。

ピレウス港は実は中国にとっても戦略的に重要な意味を持っています。同港は地中海の最も東寄りに位置し、習近平主席が掲げる「一帯一路構想」の「海のシルクロード」で、中東から欧州に向かう海上ルートの“表玄関”に当たります。そのピレウス港を手中におさめることは、同構想実現の重要な足がかりとなるものなのです。

その意味で、ギリシャの経済危機とEUとの対立は、中国にとっては“千載一遇”のチャンスです。ロシアも同じようにチプラス政権への接近を図っていますが、中国もギリシャへの支援や開発援助を進め、同国への影響力を高めることを狙っているところです。

ところがその中国の足元がグラつき始めました。株価急落が続けば経済の変調にとどまらず現政権の政治的な動揺につながりかねません。今回の中国政府のなりふり構わぬ株価対策はそうした危機感の表れでもあります。

その中で要注意なのが、ギリシャ危機→欧州経済低迷→中国経済低迷という影響です。中国にとって実は最大の貿易相手はEUなのです。したがってギリシャ危機がさらに拡大・深刻化すれば欧州全体の経済にも影響が及ぶ可能性があり、それが中国経済の悪化を加速させるおそれもあります。実際、中国が2010年ごろから景気減速が顕著になったのも、同時期から深刻化したギリシャ危機、欧州債務危機の影響が一因となっています。

今回のギリシャ危機が欧州経済全体に与える影響については、2010~2012年の前回と比べると限定的との見方が多く、私もそう見ていますが、それが中国の経済悪化との共振を起こすようなら、世界経済と日本経済への影響が大きくなるおそれがあります。十分な注意が必要です。

*本稿は、株式会社ストックボイスのHPに掲載したコラム原稿(2015年7月10日付)の一部加筆修正したものです。

ページトップへ