経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 46 上昇に転じた地価~資産デフレ脱却が見えてきた

(2014年3月26日)

3大都市圏ではオフィス、住宅ともに活況

資産デフレからの脱却が見えてきた。国土交通省がこのほど発表した2014年の公示地価は3大都市圏で前年比0.7%の上昇となり、2008年以来6年ぶりにプラスに転換した。全国平均では0.6%下落とマイナスがまだ続いているものの、リーマン・ショックで下落に転じて以降では最も下落率が小さくなった。

公示地価の推移を振り返ると、バブル崩壊後の1992年から2006年まで下落が続いた後、2007、2008の2年間は全国平均でもプラスとなったものの、2009年から地価は再び下落に転じていた。それが今年、3大都市圏がプラスに転換し、全国平均でもプラスまであと一歩まで回復したということは、明らかにトレンドが上向きに変化したといってよい。

この変化の背景にあるのは、アベノミクスによる景気回復と金融緩和の効果に加えて、不動産投資信託(REIT)などの投資マネーが流入などで不動産市況が活況となっていることだ。

東京の商業地ではオフィス需要が旺盛で、東京都心5区のオフィス空室率は7.01%と約5年ぶりの低水準となっている(オフィス仲介大手・三鬼商事調べ)。同時にオフィス賃料も上昇し始めており、「家賃が上がる前に、条件のいいオフィスに引っ越そう」という動きも増えているという。このところ東京都心では大型オフィスビルが続々と完成しているが、稼働開始の時点で満室という物件が相次いでいる。

住宅需要も活発化している。東京では2020年の五輪開催を控えて湾岸部の大型マンションが特に人気だという。住宅市場の活況は全国にも広がっている。不動産経済研究所によると、2013年の全国マンション販売戸数は前年比12.2%増の10万5282戸で、2007年以来6年ぶりに10万戸を超えた。

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2007~2008年にも上昇――当時との違いは?

しかしこうした動きに対して、「まだ本物ではない」「上昇に転じたと判断するのは早計」などの指摘が出ているのも事実。現に、2007、2008年にもいったん上昇したものの、2009年以後は再び下落したという前例がある。まして、その時の上昇率は3大都市圏で2007年3.8%、2008年5.3%に達していた。全国平均でも0.4%、1.7%と2年連続で上昇していたのだから、今年の公示地価をもって「上昇」と断ずるのは早すぎるというものだ。

しかしそれでも、「地価は上昇基調に転じた」とみる。その根拠は、2007~2008年当時と現在とでは、経済の実態と政策の方向が全く違うということである。当時は確かに景気は良くなっていたが、デフレ脱却はまだ見えていなかった。そして当時の日銀は景気がよくなってきたことを理由に、2006年3月に量的緩和解除、同年7月にゼロ金利解除、2007年2月に追加利上げと、金融引き締め政策を進め、その後もさらなる利上げを模索していた。

そのような状況で2007年8月のサブプライム・ショック、翌2008年9月のリーマン・ショックによって、地価も下落に転じたのだった。サブプライム・ショックが起きた時、直ちに米国FRBは連続的に利下げし、一気に量的緩和まで進めたが、日銀はリーマン・ショック後まで利下げしなかった。つまり、金融引き締めの姿勢をなかなか転換しなかったのである。

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金融緩和が後押し――真価問われるアベノミクス

これに対して現在は景気が回復してきているだけでなく、着実にデフレ脱却が近づいている。デフレかどうかの有力な尺度である消費者物価指数でみると、2008年当時も前年比1.5%上昇(生鮮食品を除く総合指数)したが、それは原油高騰が最大の原因で、そうした要因を除いた「食料とエネルギーを除く総合指数」では前年比ゼロだった。これは、国内の需給面からみた物価は上昇していなかった、つまりデフレ脱却には程遠かったことを示している。

現在の物価は、今年1月の「生鮮食品を除く」で前年同月比1.3%上昇と、2008年当時に近づいている。もっと注目すべきは「食料とエネルギーを除く」でも0.7%上昇となっていることだ。この水準は2008年当時を通り越して、なんと1998年以来のことなのである。つまり、原油価格上昇による影響を除いても物価が15~16年ぶりの上昇率になってきたということだ。デフレ脱却は間違いなく近づいている。

日本のデフレは、消費者物価で表される一般物価だけでなく、株式や土地などの資産デフレがもう一つの特徴だ。それが今、株も一定の回復を見せ、土地も回復し始めた。このように一般物価と同時に、資産デフレからの脱却も視野に入ってきたという点で、デフレ脱却はよりしっかりした動きになっていくだろう。

そしてこれを後押ししているのがアベノミクスと、それに歩調を合わせる日銀の金融緩和だ。2007年当時と違って、現在の日銀はデフレ脱却まで緩和を続けることを約束している。4月の消費増税後の経済情勢いかんでは追加緩和も可能性もある。安倍首相も6月に「新・成長戦略」をまとめる考えを表明しており、デフレ脱却に向けた追加的な政策が期待されている。

4月の消費増税で一時的な消費の落ち込みは避けられないだろうが、それでも景気回復とデフレ脱却の流れは途切れないとみている。中期的にも、2020年の東京五輪開催とそれに向けた住宅建設や都市再開発などが進むだろう。同時にそれは全国的にインフラ再整備に対する再認識、防災対策などの機運が高まることにつながる可能性がある。

もちろんこれが一筋縄で進むわけではないだろう。地価が回復してきたといっても、地方圏の足取りは依然として鈍く、地方の中でも二極化の傾向が見える。また建設業の人出不足やコスト上昇など、乗り越えなければならない課題も多い。地価の回復だけでなく、日本経済の成長力全体を高めてバランスのよい発展を実現することが必要だ。アベノミクスの本当の真価が問われるのは、むしろこれからといえるだろう。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(2014年3月25日付け)を転載したものです。

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