経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 36 米国にもあった「3本の矢」!?~米経済が意外に好調な背景とは

(2013年12月13日)

雇用など好調な指標相次ぐ

このところ米国経済の好調ぶりが目立っている。今年10月には、財政問題をめぐる与野党の対立で政府機関が一時閉鎖に追い込まれ、景気への悪影響が心配されたが、その後に発表された経済指標の多くは好調なものばかりだ。

▽11月の非農業部門雇用者数 前月比20万3000人増(事前予想を上回る)
  11月の失業率 7.0%(前月比0.3㌽低下)=5年ぶり低水準

▽11月のISM製造業景況感指数 57.3(前月比0.9㌽増)=2年半ぶり高水準

▽11月の新車販売台数 前年同月比8.9%増=11月としては10年ぶり高水準

▽9月の住宅価格指数 前年同月比13.3%増=2006年2月以来の高い上昇率

このように消費、住宅から企業、雇用と各分野で好調な数字が相次いでいる。特に改善が遅れていると言われてきた雇用の面でも改善が進んでいることは、米国景気の回復が“本物”であることを示している。

これを受けて株価の上昇も続いている。NYダウ(ダウ工業株30種平均)は 11月下旬に初めて1万6000㌦台に乗せ、その後も史上最高値圏で推移している。

いつの間に米国経済はこれほど好調になったのだろうか。これには、3つの背景がある。

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米国経済好調の背景①=金融緩和の効果

第1は金融緩和の効果だ。FRB(米連邦準備制度理事会)はリーマン・ショック後、これまで3度にわたる量的緩和を実施してきた。その規模は、1回目(QE1)が1兆7200億㌦(約170兆円)、QE2は6000億㌦(60兆円)、QE3は毎月850億㌦ずつ(2013年12月時点で合計約9500億㌦、約95兆円)で、これは現在も継続中だ。

規模が大きいだけでなく追加緩和を打ち出すタイミングも効果的だった。QE1はリーマン・ショック直後の2008年12月から2010年6月まで実施されたが、QE1を終了する頃からギリシャ危機の影響で株価が下落し景気回復が足踏み状態となった。このため2010年8月末にバーナンキFRB議長が「追加緩和の用意がある」と発言し、同年11月にQE2を開始した。これで再び株価は上昇軌道に戻り景気回復を持続させることに成功したのだった。

ちょうどその頃の2010年9月に取材でニューヨークを訪れたが、現地で日に日に景況感が明るくなっていったことを今でも鮮明に覚えている。

2013年になって株価が史上最高値を更新し景気回復が鮮明になったのは、明らかにQE3が貢献しています。こうしてみると、3度にわたる量的緩和の効果が大きかったことがよくわかる。

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米国経済好調の背景②=財政出動の効果

第2の背景はオバマ政権による財政出動だ。オバマ大統領は就任直後の2009年1月に7870億㌦の景気対策を打ち出し、リーマン・ショックによる急激な景気悪化に歯止めをかけた。2011年9月には4500億㌦の追加策も打ち出している。今では財政赤字がクローズアップされて、これらの景気対策は忘れ去られた感があるが、この財政出動が景気回復を支えたことは間違いない。

こうしてみると、第1が金融緩和、第2が財政出動と、アベノミクスと同じパターンなのに気がつく。では、第3の矢、成長戦略にあたるものが米国にはあったのだろうか。

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米国経済好調の背景③=シェール革命

実はあったのだ。それはシェール革命である。

従来、シェール層という地層から原油や天然ガスを採掘するのは困難だったが、米国では近年の技術開発によって低コストでシェールガスを生産することが可能となり、生産が急増している。今や米国内で生産される天然ガスのうち3分の1がシェールガスとなり、今後はさらに増える見通しだ(図表1)。しかもシェールガスの価格は既存の天然ガスの3分の1程度ときわめて安価。それによってエネルギー価格が劇的に下がり、企業のエネルギーコストが低下している。アメリカ企業の生産性向上と競争力強化につながる構造変化が起きているといえる。

シェール革命はもう一つの構造変化をもたらしている。低価格のシェールガスとシェール・オイルの生産が増えたことで、米国は原油輸入が減少しており、その結果、貿易赤字が急速に減っているのだ(図表2)。今後シェールガスの輸出が増えていけば、貿易赤字はさらに縮小する。これまで膨大な貿易赤字が米国経済の最大の構造的弱点だったことを考えると、そのインパクトの大きさは、まさに「革命」と呼ぶにふさわしい。

シェール革命は、アベノミクスにおける成長戦略のように、オバマ政権が政策として銘打っているわけではないが、結果的にアメリカ経済の成長を支える重要な要素となっていることは間違いない。米国経済はわれわれが想像する以上に強くなりつつある。

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株価上昇と円安・ドル高は中長期的に持続か

今年5月以降、米国の量的緩和縮小をめぐって市場は揺れ続けてきた。株式市場では、経済指標でいい数字が出るたびに量的緩和縮小が早まるとの観測が強まり、緩和マネー縮小の懸念→株価下落を繰り返してきた。しかし12月6日に発表された雇用統計が市場の予想を上回る改善となったことをうけて、今度は株価が上昇、為替相場では円安・ドル高となった。量的緩和縮小が早まるとしても、景気好調というプラス面に目を向けるように市場の空気も変化してきたといえそうだ。

もう一つ、為替相場について付け加えると、このような米国経済の好調は中長期的な円安・ドル高の可能性を示している。量的緩和の縮小はドル高要因であり、逆に日本は来年春にかけて追加緩和の可能性があるため、これは円安要因。

さらに前述のシェール革命で米国の貿易赤字が縮小していることもドル高要因であり、これは構造的な変化である。一方、日本は東日本大震災以後、原発事故によって火力発電への依存度が高まり、その影響で原油・天然ガスの輸入が急増して貿易収支が赤字に転落した。貿易赤字は拡大しており、長期化する可能性が高い。これも円安要因である。

もちろん株価も為替も他の要因でも変動するわけで、株価下落や円高の場面は今後もあるだろう。しかし中長期的にみれば、米国経済の強さが復活し、株価上昇、円安・ドル高という流れが続く可能性は大いにありそうだ。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(12月10日付け)を一部加筆修正したものです。

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