経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 19 大阪に高さ日本一のビルが出現~大阪経済活性化に期待

(2012年9月11日)

「あべのハルカス」高さ300メートルに到達

東京ではいま、東京スカイツリーが人気を集めているが、大阪では高さ日本一のビルが姿を現した。近畿日本鉄道が2014年春開業をめざして建設中の超高層複合ビル「あべのハルカス」で、完成時の高さ300メートルに到達した。東京スカイツリーには及ばないが、横浜ランドマークタワー(296メートル)を抜いて、ビルとしては日本一の高さとなる。地盤沈下が続く大阪経済の活性化の起爆剤にと期待が集まっている。

8月末に高さ300メートルに到達した「あべのハルカス」、開業は2014年の予定=筆者撮影

「あべのハルカス」は近鉄が総力を挙げる一大プロジェクトで、地上60階建て、総投資額は1300億円にのぼる。東武鉄道の東京スカイツリーに対抗して、「西のスカイツリー」といったところだ。

ビルの14階までの低層部には近鉄百貨店が入居し、売り場面積10万平方メートルと国内最大級となる。中層部はオフィス・スペースとなる予定で、すでに7割程度の入居が内定しているという。38階以上の高層部は外資系高級ホテルなどが入居するほか、大学や美術館なども入居する予定だ。近鉄は「先進的な都市機能を集積した立体都市」と強調する。

最上階部にはもちろん展望台も出来る。高さ300メートルから大阪が一望のもとに見渡せることになるわけで、完成すれば大阪の新名所になりそうだ。ちなみに「あべのハルカス」の名称は、平安時代の「晴るかす」という言葉から名づけたそうで、「晴れ晴れとさせる」との意味だという。

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阿倍野地区再開発の目玉~キタ、ミナミに次ぐ「第3の都心」へ

同ビルが建設されているのは、JR環状線や市営地下鉄の天王寺駅と近鉄阿倍野橋駅のターミナルに直結した場所。ここ天王寺・阿倍野地区は庶民的な雰囲気の商店街や飲食店が立ち並ぶ繁華街だが、キタの梅田やミナミの難波・心斎橋などに比べると、高層オフィスビルや大型商業施設は少なかった。それだけに、「あべのハルカス」はひときわ目立つ存在だ。阿倍野地区再開発の目玉といっていいだろう。

実はすでに、阿倍野地区の“変身”は始まっている。昨年4月に新しいタイプの大型商業施設「あべのキューズモール」がオープンして活気づいているのだ。こちらは東急不動産が手がけたもので、高さは地上6階だが、店舗面積約6万9000平方メートルという府内最大のショッピングモール。ユニクロ、イトーヨーカドー、東急ハンズなどを核テナントとして約320店舗が入居している。市内の繁華街にありながら、形態は郊外型のショッピングモールという点がユニークだ。

通りの向かい側に昨年4月に開業した「あべのキューズモール」(道路沿いの建物)=筆者撮影

中でも注目を集めたのが「渋谷109」の入居だ。周知のように、「渋谷109」は10代を中心とした若い女性に絶大なる人気を誇るが、関西進出は初めて。しかも阿倍野という土地柄の“意外性”も話題を呼んだ。

その結果、「109」目当ての若者から、スーパーに買い物にやって来る近所の主婦や高齢者まで、幅広い年齢層の集客に成功している。「来店した中高年のお客さんが逆に109にも立ち寄るなど予想を超える人の流れが出来ている」(東急不動産)と言う。初年度の来館者数は2700万人に達し、当初計画の1700万人を大きく上回ったという。平日の昼頃に店内をのぞいてみたが、たしかに多くの人でにぎわっていた。

この「あべのキューズモール」と大通りをはさんだ向かい側で「あべのハルカス」の建設が進んでいるのだ。両者を運営する近鉄と東急不動産、それに最寄駅である天王寺駅を持つJR西日本の3社は「Welcomingアベノ・天王寺キャンペーン事務局」を発足させ、共同でイベント開催など同地区の盛り上げに取り組んでいる。地元でのこうした活動は「ハルカス」完成の2014年春に向けて熱を帯びていきそうだ。これらが核となって天王寺・阿倍野地区の再開発が進み、キタ、ミナミに次ぐ「第3の都心」に発展することを関係者は期待している。

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大阪市内の地域間競争激化~全体として活性化に期待

これは、大阪市内の地域間競争、特に百貨店の増床競争、ホテル戦争といった観点からも興味深く見ることができる。百貨店戦争という点では、昨年3月に高島屋が難波の大阪店を大幅増床改築オープンしたのに続いて、昨年4月にはキタの梅田で大丸が大幅増床改築オープン、伊勢丹三越が新規オープンした。今年11月には改築工事中だった阪急百貨店がいよいよ全面改装オープンする。これで、大阪の百貨店戦争が一段と激しくなることは必至だ。これを追いかけ近鉄百貨店は、「あべのハルカス」の2014年春開業に先行して来年夏頃から増床オープンする計画で、百貨店戦争はピークに達することになる。

また再開発が進むJR大阪駅北口地区では、来年春には大規模オフィスビルが続々と開業する予定で、外資系ホテルの進出も決まっている。こうして、キタ、ミナミ、天王寺・阿倍野地区の三つ巴の地域間競争は熾烈さを加えていくことになりそうだ。

同時に、これらの動きは私鉄会社の新たな経営戦略でもあるのだ。少子高齢化と人口減少によって各私鉄沿線人口も減少傾向が鮮明になっており、私鉄会社はビジネスモデルの見直しを迫られている。そのため各社は百貨店や不動産事業などグループ会社を含めてターミナルや都心部の再開発事業に力を入れている。これは大阪に限らず東京でも同じような動きが見られるが、東京に比べて都市の規模がやや小さい分、大阪市内での地域間競争をより激化させる一因にもなっている。

ただ、こうした競争は「パイの取り合い」となるだけという醒めた見方もある。もし投資に見合うだけの収益を得られなければ、各社の経営にとって負担になるリスクもひそんでいる。

しかしそれでも、これらの動きが大阪経済全体の活性化につながることへの期待は大きい。政治の面では橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が注目を集めているが、経済の面でも大阪が元気になって、日本経済を引っ張っていくぐらいのパワーに期待したいものである。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(9月10日付け)を一部加筆修正したものです。

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