経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 18 ロンドン五輪から見えてきた日本経済の底力と課題

(2012年8月16日)

熱戦が繰り広げられたロンドン五輪が終わった。日本は合計38個のメダルを獲得し、アテネの37個を上回って過去最多となった。日本人選手の活躍は我々を元気づけ、同時に「日本の底力」を感じさせてくれた。今回の結果は、低迷が続く日本経済にとっても多くの示唆を与えてくれている。

過去最多のメダルの原動力は「4つの力」
~あきらめず、ピンチをチャンスに変える~

今回の五輪で過去最多のメダル獲得の原動力となった底力は、「4つの力」が合わさったものだった。

第1の力は、あきらめない力、ピンチを乗り越える力である。多くの選手が五輪出場までに何度も壁にぶつかりながらもそれを乗り越えて五輪出場を勝ち取り、試合では最後まであきらめずに全力を出し切った姿はいずれも感動的だった。中でも個人的に印象に残ったのは、体操個人総合の内村航平選手とレスリング女子の小原日登美選手だった。

内村選手は個人総合予選と団体ではミスを連発。団体では他の選手にもミスが続出し、日本は銀メダルを獲得したものの、沈滞ムードが漂っていた。そして始まった個人総合の決勝。内村選手の最初の演技が鬼門のあん馬となり、まさに最大のピンチに直面した。しかし内村選手は「あん馬さえ乗り切れば波に乗れる」と考え、あん馬の演技に集中したそうだ。そして見事に成功。その後の各種目でも見事な演技を披露して金メダルを獲得したのだった。どんなにピンチになっても弱気になることなく、冷静に情勢分析をして、持てる力を発揮する――「ピンチをチャンスに変える」とは、このことである。

小原選手の場合は、五輪出場までが大変な道のりだった。世界選手権で何度も優勝した実力を持ちながら、女子レスリングが採用されたアテネ大会には階級の違いから出場できず、いったんは引退。その後、階級を変えて北京をめざすも夢果たせず、再び引退。五輪から見放された小原選手は一時は青森の実家に引きこもり状態だったという。しかしそれでもあきらめなかった。そして3度目の正直でようやく五輪のリングに立つことが出来、金メダルを手にしたのだった。

最後まであきらめずに、ピンチをチャンスに変える――現在の日本経済が求められているのも、まさにこれなのだ。長年の低迷が続く中で、震災、円高など、ピンチの連続だが、日本はこれを乗り越える力はあるはずだ。

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絆の力に支えられたメダル~日本人の持ち味

第2は絆の力だ。今回の特徴の一つに団体競技でのメダル獲得が多かったことが、それを示している。なでしこジャパンを筆頭に、女子卓球、男子フェンシング、女子バレーボールなど、劇的なメダル獲得が続いた。女子バトミントンもダブルスだから、半分団体のようなものだ。中でも女子卓球、女子アーチェリー、男子フェンシングでは、いずれも個人種目ではメダルゼロだったことを考えると、いかにチームワーク、つまり絆の力が大きかったかがわかる。

水泳も絆の力を発揮して、男女ともメドレーリレーでメダルを獲得した。入江陵介選手の「水泳は27人全員でリレーをつないでいるようなもの」、松田丈志選手の「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」など、感動的な名言も生まれた。

これらは、まさに絆の力である。そしてこれこそが日本人の持ち味であり、今の震災後の日本にとって欠かせない力である。今大会では日本人選手のほとんどが試合後のインタビューで、支えてくれた人に感謝の気持ちを口にしていたのも印象的だった。

第3の力が新しい力の台頭である。今回の特徴の一つが初めてメダルを獲得した競技が多かったことが、それを表している。女子サッカーをはじめ、女子重量挙げ、女子アーチェリー団体、女子バトミントン、女子卓球団体、男子フェンシング団体など、だ。メダルを獲得した競技数が過去最多の13となったことは、“新興勢力”の台頭を示している。

また水泳でも萩野公介選手や鈴木聡美選手など若い選手の活躍も目立った。こうした新しい力の活躍は、今後にさらなる希望を与えてくれる。これを日本経済になぞらえれば、新しい産業や企業の成長が今後の日本経済を引っ張っていくことが期待されるということだろう。日本経済にも、そのような新しい力の登場を期待したいものである。

そして第4の力は、女性の力だ。今回は女子の活躍が目立った大会でもあった。ロンドン大会自体、初めて全競技で女子が参加できるようになったのだが、その中でも日本人女子選手の活躍は目を見張るものがあった。従来は女子が活躍できる競技は比較的限られていたが、今では幅広い分野でメダルを獲得できるようになり、女子の活躍が男子にも刺激となっていたと思える。これも、女性の力を引き出し活用することが日本経済活性化のカギを握っていることを実感させる。

このように4つの力が合わさってメダル獲得数の最多記録を達成したわけで、日本経済もこの4つの力を発揮すれば元気を取り戻しさらなる成長を遂げていくことが出来るはずだ。

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「柔道」と「電機」に共通点~グローバル競争に立ち遅れ

しかしその一方で、金メダルの獲得が7個にとどまった事実も忘れてはならない。大会前に日本オリンピック委員会(JOC)が掲げた金メダルの目標15個の半分にも満たず、前回・北京の8個も下回った。その最大の原因は柔道の不振にあった。その原因はさまざまだろうが、どうやら国際化への立ち遅れということに行き着くようだ。お家芸であったはずの柔道が、いまや国際競技となった「JUDO」に逆に遅れをとってしまった感がある。

これは、強かったはずの日本の家電が国際競争力を失って不振にあえいでいる姿と重なって見える。柔道も家電も“ビジネスモデル”の見直しが迫られているといえるだろう。

柔道以外でも、金メダルに届かず銀メダルや銅メダルとなったケースは多い。今大会でメダル獲得総数が多かったのは、金メダルが少なかった裏返しでもあるのだ。最後の頂上決戦で競り負ける・・・…これはどうもスポーツに限らず日本の弱さでもあるようで、日本経済の競争力低下がその一例だ。激化するグローバル競争をいかに勝ち抜くか――五輪と日本経済に共通する課題でもある。

今回の五輪でもう一つ、日本経済にも希望を与えてくれたことがある。女子バレーボール(28年ぶり銅メダル)、男子ボクシング(48年ぶり金)、男子レスリング(24年ぶり金)など、数十年ぶりの金メダルやメダル獲得という競技が多かったことだ。かつては世界のトップクラスの実力を誇りながら低迷が続いていたこれらの競技は、見事に復活を遂げたのだ。これを見れば、日本経済も復活を遂げることができると期待したいものである。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(8月15日付け)を一部加筆修正したものです。

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