経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 12 「震災から1年・旧態依然とした政府の対応」

(2012年3月19日)

がれき処理はわずか6%

東日本大震災から1年が経った。被災地では復興に向けた懸命の努力が続き、全国からも支援が寄せられている。しかし復興は思うように進んでいないのが実情だ。3月11日前後は各メディアが被災地の現状を詳しく報道していたが、目立ったのは、震災から1年たっても相変わらずの旧態依然とした政府の対応ぶりだった。

その一つががれきの処理。被災地でこれまでに処理が済んだがれきの量は全体のわずか6%だという。がれきの大半は最終処理の見通しがつかないため、各地で仮置き場に数メートルもの高さに積み上げられたままになっているのだ。筆者は何度か被災地を訪れたが、何カ月経ってもガレキの山が一向に減っていないことにショックを受けた。被災者は毎日それを目にしているのである。その光景は被災者の心をさらに傷つけ、復興に立ち向かおうとする気持ちに水を差すことになりかねない。

何故がれきの処理が進まないのか。予算がないわけではない。すでに2011年度の4次にわたる補正予算で、がれき処理経費として合計7400億円が計上されている。しかし予算はつけても実際の対応は被災地の自治体任せというのが、これまでの政府の姿勢だったといわざるを得ない。ようやく野田首相は3月11日に、被災3県以外の各都道府県に対しがれき処理受け入れを文書で要請すると表明した。本来ならもっと早い時期に行うべきであったし、がれき受け入れに伴う安全性について各自治体や住民の不安を取り除く努力を国が責任を持って行うべきだ。こうした基本的な取り組みを今まできちんとしてこなかったことが問題なのである。ここへきて、がれき受け入れを表明する自治体が増える兆しが出てきた。だからこそ政府はもっと前面に出て、がれき処理を最優先課題として集中的に取り組む必要がある。

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復興交付金配分、自治体の申請の6割しか認めず

もう一つ、旧態依然とした対応ぶりといえば、復興交付金の配分のニュースにも驚いた。復興交付金とは住宅や道路整備、高台移転など40事業の補助金を一括化して、被災地自治体が復興のために自由に使える交付金として新設されたもので、昨年11月に成立した2011年度第3次補正予算で1兆5600億円が計上された。震災から1年を前にした3月2日に、復興庁が第一次配分を決めたのだが、各自治体からの要望額3899億円に対して、復興庁が配分を認めたのは2509億円にとどまった。要望額の6割あまりに過ぎない。宮城県の村井知事がテレビカメラの前で「これでは復興庁ではなく査定庁だ」と怒りをあらわにしていた。

報道によれば、例えば仙台市の集団移転、石巻市の防災無線整備、福島県二本松市の被災道路補修や区画整理など、多くの事業で交付金配分が認められなかった。復興庁はこの配分決定にあたって、自治体の担当者を呼んで事業内容についての説明や資料提出を求めたが、自治体の担当者は「従来の補助金事業の申請よりも予算査定が厳しい」と感じたという。

これでは何のための「復興交付金」か。自治体が復興のために自由に使えるという当初の目的はどこへ行ってしまったのか。そもそも地域レベルの個々の事業について国が的確に査定することなどできるはずがない。それこそ自治体に任せればよいのだ。それをあたかも「国の権限」とばかりに予算の配分権を握って離さない姿は、まさに旧態依然そのものである。復興庁が発足したのは今年2月10日。震災から11カ月も経ってようやく発足したのだが、その初仕事がこの復興交付金の配分決定だったのだ。これでは、復興庁が復興の足を引っ張ることになりかねない。

野田政権は消費税引き上げに精力を費やしているが、その熱意をもっと復興に向けるべきである。3月11日の政府追悼式典で、宮城県遺族代表の奥田江利子さんは「涙を越えて強くなるしかありません。全国の皆さまからさしのべてもらったその手を、笑顔で握り返せるように乗り越えていきます」と語っておられたが、同じ会場にいた野田首相はその言葉をどんな思いで聴いていたのだろうか。復興はこれからが正念場である。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(3月16日付け)を一部加筆修正したものです。

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