経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 8 「復興財源論議の落とし穴~増税しても税収は増えない~」

(2011年10月17日)

11.2兆円の増税方針決まったが……
~歳出削減、埋蔵金活用など不十分~

政府・与党は震災復興の財源として11.2兆円の増税を実施する方針を打ち出し、それにもとづき第3次補正予算の基本方針と復興財源確保法案をまとめた。政府は10月中に開く臨時国会に提出する予定。増税の内訳は、所得税を4%(増税額5.5兆円)、法人税を10%(2.4兆円)、たばこ税1本1円(1.7兆円)などが中心。ただ与党内に増税に反対する声が強いことから、政府は増税額を9.2兆円に圧縮することを目指しているが、その扱いはあいまいなままだ。野党との協議も難航が予想され、補正予算の成立まではまだ不透明な要素も残っている。

しかし増税そのものは既定路線のようになっている。果たしてそれでいいのだろうか。本コラムで以前に指摘したように(Vol.1「震災復興策の“優先順位”に問題あり」)、増税の前にやるべきことがある。マニフェストの全面見直しや歳出削減、埋蔵金活用などを最大限行うべきであり、その上でどうしても足りない分を増税でまかなうというのが、あるべき姿だろう。しかし今回、マニフェスト見直しや歳出削減はきわめて部分的なものにとどまっており、まだまだ削減の余地がある。

また政府・与党は増税以外の財源として税外収入確保を掲げ、JT株や東京メトロ株の売却を打ち出したが、いわゆる埋蔵金の活用についてはほとんど手をつけていない。特別会計の剰余金にもっとメスを入れれば、数兆円から10兆円規模の財源捻出が可能との試算もある。そうなれば増税はほとんど必要ないことになる。まだある。野田首相は朝霞の公務員宿舎の建設凍結を決めたが、これは当然のことで、他にも「官」が身を削るべきことは多い。民主党がマニフェストで示した国家公務員人件費2割削減や議員定数削減などはいまだ手付かずの状態だ。

こうした対策は、増税の前にやるべきことであると同時に、中長期的な財政再建のためにも必要な改革なのである。

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この20年間、税収額は減少傾向続く

さらに根本的なことを言えば、今の増税論議で見落とされている点がある。実は増税しても税収は増えないということだ。なんだか理屈に合わないことを書いているなと思われる方もあるかもしれないが、下記のグラフを見ていただきたい。わが国の一般会計の税収額は1990年度ごろまでは年々増加していたが、1991年度以降は減少傾向が続いている。2009年度の税収額は約39兆円足らずで、ピークだった1990年度(60兆円余り)の3分の2以下に落ち込んだ。その後はやや回復しているが、それでも2011年度(当初予算)は41兆円と低迷したままだ。それに対して歳出額は増え続けており、税収とのギャップは鰐が大きく口を開いたように年々拡大している。その差額の大半が国債発行となっているわけだが、税収額の減少傾向が20年も続いているということが重大なのだ。この間、不況が続いていると言ってもそれなりに経済は成長していたわけで、その中で税収が20年間も減り続けているのは異常事態だとの認識があまりないように感じられる。

日本の税収は、所得税、法人税、消費税が中心で、この3つで税収全体の7~8割を占める。つまり大雑把に言えば、税収額の減少が続いているということは、企業の利益が増えないから法人税収が増えない、そのため個人の所得が増えないから所得税収が増えない、そのためモノを買わないから消費税収が増えない、このような状態が20年間も続いていることになる。1997年には消費税率を上げたにもかかわらず、である。これは、増税しても税収は増えないことを示している。

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日本経済の経済活性化と競争力強化が不可欠

したがって、復興財源捻出と財政再建のためには増税に頼るのではなく、税収額そのものを増やすようにしなければならない。そのためには、企業の利益が増えるようにする、個人の収入が増えるようにする、そして人々がモノをより多く買うようにすることだ。個人の収入も出発点は企業の利益であることを考えれば、企業が元気になるような政策を思い切って打ち出すことが重要だ。そのためには、日本企業にとって重荷となっている円高、高い法人税など“六重苦”と呼ばれる負担を軽くするよう政策を転換することが必要だ。

それは同時に、日本経済を活性化し競争力を強化する方策でもあり、それこそがデフレ脱却につながるものだ。現在たたかわされている復興財源の論議では、この視点が欠けている。最終的には増税が必要だとしても、増税だけを先行させることは日本経済の活性化に逆効果である。日本経済が沈没してしまっては復興もいきづまってしまう。いま必要なのは、震災復興と同時に日本経済を真に成長させる戦略だ。

*本稿は、株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(10月11日付け)を一部加筆修正したものです。

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