経済コラム「日本経済 快刀乱麻」

Vol. 7 「震災から半年~生産回復にみる日本企業の底力」

(2011年09月17日)

ユーザー企業が協力して復旧を応援~“現場力”で危機を乗り切る

東日本大震災からちょうど半年が過ぎた。震災で日本経済は大きな打撃を受け、復興は思うように進んでいない。たがその一方で、企業のサプライチェーン(供給網)は予想以上の早さで復旧し、自動車や電機など基幹産業の生産は震災前の水準近くまで回復している。これは各企業が必死に努力した結果であり、そこに日本企業の底力を見る思いがする。

その代表例が半導体大手のルネサスエレクトロニクス那珂工場(茨城県ひたちなか市)。同社は自動車の制御などに使われるマイコンの世界市場で約3割のシェアを持ち、那珂工場はその主力工場だが、地震で壊滅的な被害を受けた。その影響で全国の自動車各社の生産が止まったのをはじめ、製造業全体に影響が広がった。

そこから懸命の復旧が始まる。同工場の全従業員ががれきの撤去や工場設備の修復に当たったが、特筆すべきは、マイコンのユーザーである自動車大手や電機、機械、ゼネコンなどの各社がルネサスの復旧のために応援部隊を派遣したことだ。それぞれの企業は、自社の生産回復のためにはルネサスの生産復旧が不可欠だと判断して、企業の枠、業種の枠を超えて協力して支援に乗り出したのだった。一日最大で2500人の応援が派遣されたという。その結果、震災から約3カ月後の6月には生産再開にこぎつけることができた。震災直後は、生産再開は年内いっぱいかかりそうと見込まれていたことからみると、驚異的な復旧スピードである。

そのほか各企業は自社の工場復旧に当たるとともに、部品の調達先を急きょ開拓するなどで乗り切った。日本の製造業は日頃から生産を支える現場の力が優れていると言われるが、まさに“現場力”を発揮し一致団結して危機を乗り切ったのだ。これこそが、予想以上の早さで生産を回復させた原動力であり、日本企業の底力である。

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7-9月期GDPは大幅プラス成長へ

これはデータにも表れている。経済産業省が発表する鉱工業生産指数は、3月は前月比15.5%低下と過去最大の落ち込みを記録したが、早くも4月には1.6%の上昇に転じた。さらに5月には6.2%と大幅に上昇し、6月、7月も上昇が続いている。生産の水準としては震災前の2月の95%まで回復した。目を見張る回復ぶりである。

こうした生産の回復が日本の景気全体を下支えしているのは間違いない。GDP(国内総生産)は1-3月期がマイナス3.6%、4-6月期がマイナス2.1%だったが、7-9月期のGDPはプラス成長になる見込みだ。短期的な観点では、震災による景気の落ち込みはすでに峠を越えたと言える。もし各企業の努力がなければ、景気の落ち込みはもっと大きなものになっていたであろうし、回復ももっと遅れていただろう。

最近、日本企業は海外企業に押され競争力が低下したといわれる。確かに、円高も加わって厳しい環境におかれているのは事実だ。しかし今回の震災からの復旧で見せた底力は、もっと評価されていいと思う。それは日本の製造業の再生につながるものだ。

それに比べて、日本の政治のなんとお粗末なことか。この間の菅内閣の無策と党内政局に憂き身を費やしてきた民主党の迷走が、いかに復興の足を引っ張っているか。このままでは、せっかくの企業の力をそぐことになりかねず、日本経済は円高やデフレの重圧につぶされてしまうおそれがある。これまで民主党政権は「アンチ企業」的な政策をとってきたが、新しく発足した野田政権はこれを転換し、日本企業が本来持っている底力をいっそう発揮できるような政策をとるべきである。

*本稿は株式会社ペルソンのHPに掲載したコラム原稿(9月13日付け)を転載したものです。

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